時計を見つめていたら唐突に会いたいと思った。本当に唐突だった。
別に時計が止まっているとか異常に早く進んでるとかましてや落ちたりしてないのに。
普通に12時を指している。午前が午後になっただけだ。
この時期は処理する書類もないし、そもそもトキワジムは最後のジムでここまで挑戦者が来るのも稀で。
とにかく暇だ。四天王なんかはどうしているんだろうか。
色んな街を放浪しているとたまにばったり会うのはあいつらも暇なのか。と心底どうでもいいことに思考を埋める。
しかし一度思ったことはすぐには消えてくれなくて。
会いたい、会いたい、会いにいきたい。
もう本当に会うだけでいい。
暇そうな四天王よりあんたとすれ違うだけでいい。
声が聞けるだけでいい。
顔を見るだけでかまわない。
なんて女々しいのか。
前会ったときに写真撮ればよかった。
あ、でもそんなことしたら俺はその写真を眺めてレッド…などと呟くのか。それはない。さすがに気持ち悪るすぎる。
自己嫌悪しながら机に突っ伏す。
暇だなんだと行ってもジムを離れるわけにはいかないんだ。まあよく空けるけど。
「あいつ電話取らねぇし…なんのためのポケギアだ」
「グリーンから連絡きたことはわかるよ」
「じゃあ取れよな…は、うおわっ!」
超至近距離で声がして驚いて顔を上げたらお互い触れそうなくらい目の前にいた。レッドが。
「な、ななな、何でお前…っ」
「グリーン顔赤い」
「…っ、うっせ」
ばくばくと音が鳴る心臓を落ち着かせるためにとりあえず離れようと椅子ごと後ろに下がろうとしたら後頭部を捕まれてそれは叶わなかった。
「なに、」
「グリーン可愛い」
「…可愛くねぇ」
「僕に会いたかったんでしょ」
かあ、とまた顔が赤くなるのがわかる。疑問形じゃないところが憎たらしい。
「…べつに」
「会いたくなかった?」
「……」
「会いたかった?」
「…会いたかった」
観念して言うとそのままレッドに唇を奪われた。
キスも、久しぶりだ。
触れるだけのキスをして、レッドは俺に抱き着いてきた。
間に机があるのによく体制が持つなと思ったがまあレッドだしなと変に納得した。
「…僕も会いたかった」
「なら、もっと頻繁に帰ってこいよ。俺に会いに」
首元でレッドがくすりと笑った。
くそ、顔が見えない。
そんな事言ったってすぐまたシロガネ山に帰るのだろう。
という俺の予想を裏切って約二週間はこちらに滞在するというのを、まだ俺は知らなかった。
(110610)