寒い、寒い寒いああ寒い。
どこにいるんだコノヤロウ。
がちがちと震えながら雪を踏み付ける。
今世間は春を迎えようとしているのにこの寒さはなんだ。いや、シロガネ山はいつでも寒い。わかってる。わかってるけど。
「さ、む…」
山を登ってから何回呟いたかわからない言葉を白い息と共に吐く。
寒いとわかっていてもこんな吹雪なんて聞いてない。
おかげでピジョットが凍えてしまいそうで途中までしか跳べなかった。リザードンはレッドがまだ預かってる。
そう、レッド。レッドが呼んだんだ、俺を。
以前渡したポケギアが初めてかかってきたと思ったらいきなり『来て』の一言だった。
何様だレッド様か。
たった一言で会いにいく俺も俺だがポケギア渡したときだって何ヶ月前だったか。
そりゃ、もしかしたら何かあったかもしれないしただ呼んだだけかもしれないがその電話がちょっと嬉しかったわけで。
いや嘘だかなり嬉しかった。
でも少しくらいこっちに配慮してもいいんじゃないか。リザードン返せ。
電話を折り返しても取ってくれないのは面倒だからかやっぱり何かあったからなのか。
このままだとこっちがどうにかなりそうだ。寒さで。
今更立ち止まることも出来ないため歩き続けるが炎ポケモン持ってこればよかったと後悔した。キュウコンの尻尾でぬくぬくと暖まりたい。
猛烈吹雪の中でも道を見失わないのはシロガネ山の特徴か俺の空間認識力が研ぎ澄まされているのか、どちらにしろ迷わないという過信で油断していたのは確かで。
ざくざくと進む雪の感触がちょっと変わったことに気づかなかった。
「え、うわっ」
いきなり地面が抜け、落ちたと思ったらぼよんと何かが下敷きになった。
よく見るとカビゴンだ。
俺がお腹に落ちてきても寝ていた。さすがだな。
「あ、グリーン遅かったね」
「レッド!」
カビゴンを見て和んでいたらすぐ近くに探し人が見つかった。
しかもこたつでまどろんでいる。怒る気も失せた。
とりあえず何かあったわけではなさそうだ。
「なんだここ…」
「四六時中あの吹雪の中立つのもどうかと思って」
今更じゃないか。と思ったけど言わないことにした。
カビゴンから降りてレッドに近寄った。
「で、何だいきなり」
「あ、そうそう」
かばんから何か取り出しながら座れば、と言われたので遠慮なくこたつを満喫する。
「あったけー…」
「これ」
目の前に出されたのは前に渡したポケギア。そういえばここ山奥なくせに電波届くなんて最近は科学が進歩したななんて場違いなことを考える。
「…?」
「これ、使い方わかんなくて」
「はあ?」
「さっきからグリーンの名前出てるけど、グリーンがかけたんだよね?」
驚愕して開いた口がふさがらない。
何年も山に篭っているからと最初に丁寧に、それはそれは丁寧に教えたのにこいつは何も聞いてなかったのか。
「電話かけるにも一苦労で」
「………」
「…聞いてる?」
こっちの台詞だ。なんてやつだ。
昔から一緒にいるけど昔からわからない。
ただ今は少し饒舌ってだけしか。
「え、じゃあ、使い方を聞くために…」
当然というふうに頷くレッドの頭を力一杯殴った。
俺の苦労とリザードンを返せ。
(110610)