あぁ、どうしよう。
困った。
非常に困った。
開けた冷蔵庫から冷気が流れ込んでくる。早く閉めないと電気代が上がると頭ではわかっているが、体が動かない。
僕としたことが。
最後の最後まで気づかなかったなんて。
この時期にしては暑い気温のせいかもしれない。
せっかく、せっかくここまできたのに。
悔しさに唇を噛む。
冷蔵庫を怒りにまかせて思いっきり閉めて時計を見る。
あと10分で正午。昼ご飯の時間。
「あぁ?八戒、何の音だ?」
さっき冷蔵庫を閉めた音で悟浄が起きたみたいだ。丁度いい。起こす手間が省けた。
「ん?お、今日は冷し中華か?」
そう、悟浄の目の前には先程まで僕が作っていた二人分の冷し中華。
今日は暑いから、ひんやりとしたものを食べようと朝から材料買いに行って作ったもの。
なのに、なのに。
「……足りないんです」
「は?」
「足りないんですよ!!!」
「え、はい?」
「足りないんですきゅうりが!!!!
足りなかったらいけないんですきゅうりは!!
主役はそりゃ麺やつゆや人によればハムなどと言う人もいるでしょうがそれはきゅうりや卵という脇役がいてこその主役であり単品だったらただのエキストラですよエキストラ。
だから冷し中華にはきゅうりが欠かせないんですよきゅうりが。
あぁ、僕としたことが大事なきゅうりを忘れるだなんて、冷し中華の中の唯一の緑を忘れるだなんて許すまじことなんですよ」
そう一気まくし立てると買い物に行くため、財布を取りに部屋に戻る。
悟浄が心底呆れた顔をしていたがそんなのは気にしない。
「悟浄、僕が帰ってくるまで冷し中華食べちゃ駄目ですよ」
「………」
「悟浄!!」
「うぇ!? は、はい…」
悟浄の返事に不安が残るが、僕は冷し中華に彩りを加えるために買い物へと足を急がせた。
「(冷蔵庫を漁る)あ、冷凍のとこにきゅうりあった…ってもう遅いか」
(110610)