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今日は僕と僕の片割れの、愛したあの人の生まれた日。
あの人はケーキなんて大層なもの作れないから、男であるはずの僕が作ったっけな。
小さなケーキを二人で囲んで。
一緒に蝋燭の火を消して。
お互いにおめでとう、なんて。

もう、あの人はいない。

…雨音がする。

目を開けたら汗がびっしょりで。
何か悪い夢を見た気がする。
だるい体を起こして時計を見ると、いつもの起床時間を大分過ぎていた。
窓を打ち付ける雨のせいで昼間とは思えない暗さだ。
人気のない家のリビングを進んだ。
家主である紅い髪の男は、まだ帰って来ていないようだ。
何をする気にもなれず、椅子に座ると、今唯一この家にいる八戒が動かなくなった事で、雨の音しか聞こえなくなった。
ふと、カレンダーが目に入った。
何か、忘れている。
八戒は立ち上がってカレンダーの前に立った。
カレンダーの日にちを一日から指でなぞる。

9月…21日。

八戒の長い指が、その数字で止まった。
あぁ、なんだ。今日は…。

ザァー
…雨音がする。

「こんな時まで、雨、ですか」

ザァー
今日は僕と僕の片割れの、愛したあの人の生まれた日。

ザァー
雨音は止まない。

でも、もうあの人はいない。
あの人がいないこの日なんて、

「…か、なん」

いらない。

「…花楠。」

八戒は力が抜けたようにガクッとその場に座り込んだ。
体が震えている。
こんな時でも、ここにいたら風邪引いちゃうなぁなんて、体の状態に反して頭は冷静で。
そんな自分に吐き気がする。
立ち上がろうにも足に力が入らない。

ザァー
雨は降り続いている。

ザァー

「…る、さい」

ザァー

「うるさいうるさいうるさ……ぁっ」

音が、消えた。
暖かい。
目の端に濡れた紅い髪が見える。

「…ご、じょう?」

自分を抱きしめている人物の名を読ぶと、もっと強く抱きしめられた。

「ごめん。もっと早く帰って来るつもりだったんだけど。壊れて、ない?俺がいるから。」

後ろからぐぐもった声が聞こえた。

「…大丈夫です。…すみません。」
「謝んなよ。謝んな。」
「…はい。ありがとうございます。…悟浄。」
「ん?」
「おかえりなさい。」
「ん。…ただいま。」

いつの間にか、震えは止まっていた。
悟浄の大きな手が髪を撫でるのが心地良い。
でも、悟浄が濡れているから自然に自分の服も濡れてきた。
しばらくそのままにしていると後ろから あ、と小さな声が聞こえた。

「な、八戒。」
「はい。なんですか?」
「ん。」

後ろから何かを探している音がした後、何かをわたされた。

「なんですか?」
「開けてみて。」

悟浄の腕に抱かれながらリボンを外すと中には二つのマフラーがあった。

「それ、実は俺とお揃い〜。」

そう言うと悟浄は自分のマフラーをひらひらさせた。

「どうして、二つあるんですか?」
「今日はお前と、お前の姉ちゃんの誕生日だろ。…おめでとう。」
「…っ」

あの人がいないこの日なんて、とても辛いけど紛れも無く僕と貴女が生まれた日で。 生きる場所はそれぞれ違ったけど、生まれた時は一緒で。
貴女がいない今日なんて無意味だと思った。存在しなくてイイと思った。
でもこんな僕と、会ったこともない僕の片割れを祝ってくれるこの優しい人は僕に、
今日を生きる意味をくれた。

「あ、りがとう、ございます」
「…っ、おぃ、な、泣くなよ」

悟浄が僕を正面に座らせて瞼にキスをした。

「ん、違います。嬉しくて。…ありがとうございます。」

悟浄の紅い瞳を見つめながら言うと、少し照れたように頬を染めて小さくおぅ、と言った。

「うわっ」
「あー、八戒腹減った!俺今日なんも食ってねぇ。なんか作って!」

相当照れたのか顔が見えないように胸に抱き込まれた。

「フフ。じゃあ何か作りましょうね。その前にお風呂入ってきて下さい。」
「お前の好きなのでイイから。誕生日だし。」
「アレ、誕生日なのに僕が作るんですか?」
「う…だ、だってよ、今日が誕生日だなんて昨日三蔵から聞いて初めて知ったんだぞ。もう少し早く知ってたら俺だって色々考えるさ。」
「はいはい。ほら、作っときますからちゃっちゃと入る。」

立ち上がって悟浄をお風呂へと促す。

「ちぇー。さっきまで大人しかったのに。」
「何か言いました?」
「いえ別に。…お風呂入ってきまーす。」
逃げるように風呂場へと行く悟浄の後ろ姿にそういえば、起きて何もしていなかった事に気づいた。

「悟浄ー、お風呂沸かしてないんで自分でやってくださいねー。」

そう声を掛けるとお前ね…という呟きが聞こえた。

優しい悟浄。僕の片割れである花楠と同じ僕の誕生日を面と向かって聞けなかったのだろう。
でも三蔵に聞いてまで祝いたかったんだなと思うと、とてつもなく嬉しい。
三蔵に聞いた次の日が誕生日なんて、さぞかし焦ったんだろうなぁ。
慌ててる悟浄が目に浮かんで自然と顔が綻ぶ。

ねぇ、花楠。
貴女の誕生日も祝ってくれるこの優しい人と一緒にいたい。

ごめん、花楠。
貴女以外に愛する人なんて出来るとは思ってなかった。

ありがとう、花楠、悟浄。
僕を愛してくれて。
僕も愛してる。

「さて、と。なにを作ろうかなぁ。」

「あ」

雨はいつの間にか止んでいた。






(110610)
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