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白く儚い結晶がアスファルトの灰色を覆った。
少し触れてしまえば、溶けてしまうだろうその結晶の上にそれまた純白の粒が、重なるように落ちた。
暗い雲から降り注いだそれは、やがて地面の灰色を銀色に輝くしろに染めた。
息を吐けば白くなる凍えるような日が続き、汚れのなかったその大地に人間の足跡がついた。
その足跡を辿ると、たどり着いたのは、小さな雪うさぎのいる場所だった。
小さな手で作られたであろう、自身も小さな雪うさぎは、冷たい風を受けながら夢を見ていた。
それは、叶うことのない夢。
願うことさえ赦されない思い。
自身に雪が積もるのを感じながら、雪うさぎはそれでも夢を見続けた。
決して叶うことのない願い。
しかし必然と、厚い雲に覆われていた空は、いつの間にかその姿を表していた。
深く、濃い暗闇から、淡い青に変えて。
叶うことはない。ただ一つの、小さな魂が願った小さな思い。
紅い実で造られた紅い瞳で、ずっと空を見ていた。ずっと待っていた。
漆黒の暗闇から淡い藍色へ、それからオレンジのまだ見たことのない太陽を。
でも、それを見る前に、雪で造られた自身は溶けて無くなるだろう。
わかっていた。でもわかりたくなかった。
朝日が見たかった。 暗闇しか知らないのが嫌だった。
冷たさしか知らないのが、果てしなく嫌だった。
叶うことはない。ただ一つの、小さな魂が願った小さな思い。
暖かい場所で眠りたかった。
溶けていく。身体が、心が、魂が。
朝はもうすぐそこ。
(110610)