※捏造しかない
窓の隙間から見える景色は、まるでおとぎ話の絵のようだった。
誰かが描いて、塗って、そのまま忘れていったような。
早く思い出して、ちゃんと消してくれたらいいのに。
ぼやけて不安定だとさえ思う景色に目を逸らせば、ざくざくと騒がしい足音が聞こえた。
「レン、起きてる?」
「シューイン!」
逸らした視線をまた元に戻せば、いたずらっ子のような笑顔がそこにあった。
色のない景色に太陽のような輝いた光が射したみたいだった。
「どうしたの?こんな朝っぱらから」
「レン、雪だ。寒いと思ったらさ、雪降ってる」
「うん。そうだね。今日寒いよね」
「一緒に、見に行かないか?」
本当は乗り気じゃなかった。でも、差し出された手はとてもとても嬉しくて、気がつけば掴んでいた。
あったかい。シューインの手はいつもあったかくて、まるでシューイン自身のようであたしは好きだった。
「オレ、雪なんて初めて見た。絵本でしか見たことなかったから嘘っぱちだと思ってたけど、本当にあったんだな」
「あ、それあたしも。雪なんて存在するのかなあ、なんて。あんまりにも降らないから」
シューインと繋いだ手は暖かいのに、もう片方の手は冷気に晒されて凍ってしまったんじゃないか、と漠然と思う。
雪を見て喜ぶシューインは無邪気で、子供のようで、とても輝いていた。
あたしはどうだろう。
雪は、おとぎ話の中でいいなんて考えていた。
「シューイン」
「ん?」
「あたしね、小さい頃にも一回だけ見たことあるの。雪。」
ふわふわと落ちる白い雪。ザナルカンドに降り積もるそれは、今のように絵本のようだった。
いつか見てみたい。寒くて冷たいけど、きれいな雪。幼い自分はそれが小さな夢でもあったかもしれない。
でも、実際、雪を見たときに思ったのは、恐怖だった。
ただ怖かった。ちっとも、きれいだなんて思わなかった。思えなかった。
その日のことはあまり覚えていない。
「そうなんだ、じゃあレンは二回目だな」
「うん。……あたしは、雪は…ちょっと怖かったかも」
「…え、」
「初めて見たときに思ったの。なんでかわからないけど、怖いって。どうしてだろう、絵本の中の雪はとってもキレイなのに」
「…ごめん、オレ…レンのこと考えてなかった」
違うよ、という意味も込めて強く手を握る。このまま一つになってしまえばいいなんて場違いなことを考えながら。
しょんぼりとしたシューインの顔が可愛いなんて言ったら怒るかな。
「でね、今わかったの」
「え、なにが?」
「怖いって思った理由。だって、ほら、あまり雪降らないから」
「……ん?びっくりした、とか?」
「うーん、近いけど違うかな。だって、
『ザナルカンドに雪は似合わない』
って思ったのかもしれない」
年中暖かくて活気溢れる街。眠らない街を多い尽くす雪がまるで文字通り別世界のようで。
あたしの知っているザナルカンドじゃなかった。雪が多い尽くして消し去ってしまった。
あたしの好きなザナルカンドはそこにはなかった。
「…レン、もう戻ろう?」
「ううん、大丈夫だよ」
「でも、」
「シューインは雪、好きでしょ」
「えっ!や、あ、…うん」
「あたしはシューインもザナルカンドも好き。」
「うん、知ってる」
見慣れない景色をあたしは拒絶した。あの姿だとしても、ザナルカンドはザナルカンドでしかないのに。幼い自分にはそれがわからなかった。だから怖かった。
なんて愚かなんだろう。
心配そうにあたしを見つめるシューインは、雪の中でさえ輝いてかっこよくて。
今は見えない青空のような瞳に吸い込まれそうだなんて。
「それに言ったでしょ、怖かった、って。今の話じゃないよ」
「へっ?っうわ!」
するりとシューインの手を抜けて素早く積もった雪を掴んで投げた。顔面に見事なジャストヒットに思わず吹き出した。
「もう、レン!」
「あはは!」
雪のついた顔のままシューインは子供のように笑う。
ねえ、シューイン。あたしが雪を怖いと思わなくなったのは君のおかげ。ザナルカンドのようなあったかくて輝いてる君が、雪の中でもシューインはシューインだったから。
姿形は変わってもザナルカンドはザナルカンドで。きっと、あたしはシューインが別人に変わったりしても好きで居続けるのだろう。
環境が変わっても、季節が変わっても、時代が変わっても。
きっと。
(120610)