Main

Start++


※召喚!



がやがやと騒ぎながら、疲れ知らずな数歩先を歩く茶髪とそれより些か小さな位置にある長い金髪。
俺を含めて三人とも両手に皮袋を、これでもかというほど溢れだしそうな中身の装飾を気にしながら歩く。

「あっ、なあスコール知ってるか?」

振り返った拍子に結んだ金髪が風に揺れる。身体も服も汚れているけれど、ジタンの笑顔はいつも通りのようだ。
ジタンの問いに俺が答える間もなく、隣にいるバッツが口を開く。

「なんだよジタン」
「それがさあ、ロビーにあるだろ?装飾交換機」
「ああ、あれどうなってるんだろうな。機械みたいだけど」
「あれに最近人がいるんだって。まあ見たやつはいないみたいだけど声が聞こえるとかなんとか」

へえー、不思議だなー、というバッツの合いの手を最後にその話は流れ、止めどなく聞こえる話し声は別の話へと移っていた。

そんな話を現実逃避でもするように俺は思い出していた。
色々と記憶が欠落した自分の頭に残っている一つのこと。

「あんた…いや、なんでもない。」
「なんだよ言いたいことあんなら言えよ」
「俺は…疲れているのか……」
「そうか?さっさと帰って寝ろ」

こっちに目線も合わさず自分の武器の手入れをしている人物にため息さえ出てこなかった。
少し前とは様子が異なるロビーでは、何故だかカウンターが出来ていて些か広くなったように感じる。

敵を倒すことや宝箱を開けることで手に入る素材を、モニターに表示されている数と種類を集めそれに応じた武器或いは装飾品へと交換してくれる機械。
通称装飾交換器に、いた。
いや、中にいるわけではなく、カウンターの向こう側に。
知り合った経緯等はすっかり忘れたが、記憶にある額傷と、翡翠の瞳。

「で、何だよ。何か交換すんのか」
「……そのために来たからな」
「ならさったとやれよ。」

ふてぶてしさは変わらない。
会話するだけでも疲れるような気がしたが、あまりにも不釣り合いな光景に口にしなければならないとなんの脈拍もなく思った。

「…あんた、こんなところで何してるんだ」

やっと聞いてくれたか、と言わんばかりにサイファー・アルマシーがこちらを向いた。

「何してるもなにも、いきなりここに居たんだよ。しかも、なんか記憶が曖昧だしよ」
「…俺のことはわかるか」
「一応な。前に何人か来たけど、そいつらはこれっぽっちも見覚えなかったな」

敵か、或いは味方の誰かがサイファーに会っていたらしい。
しかしジタンの言葉以外このことについて聞いた覚えはない。
最も、話題がでたその会話に参加していなかっただけのことかもしれないが。

「あんたがカウンターにいるってことは、受付なのか」
「まあそうだろうな」
「似合わないな」
「うるせえよ」

装飾交換器はカウンターに置いてある。
しゃり、と音を鳴らす袋に入った素材をいつものように交換器にセットすればいいのだろうか。受付がいるのに。だがそもそも受付が必要なのだろうか。

「これは…あんたに渡せばいいのか」
「なんでだよ、カウンターに置いてあんだろ自分でやれ」
「……(あんたなんのためにいるんだ)」

サイファーは受付のためだけに喚ばれたのだろうか。あまりにも不憫だ。
たしかじっとしているのは苦手な奴だった。今は武器の手入れで大人しくしているが、暇になって動き出したら。

「……面倒だ」
「セットするだけだろ」
「そういうことじゃない」

きっと面倒なことになる。こいつが動き出したら厄介ごとしか起きない。そして俺と顔見知りだ。この世界ではその尻拭いが俺に来る気がする。
行動力と、意外なことにそれなりに頭はいい。しかしトラブルメーカーだ。

「おい防具だけかよガンブレードはどうした」
「ガンブレードならもう俺のはライオンハートだ」

青く輝くガンブレードを掲げると、おお、と感嘆の声が上がった。
ガンブレードは他の世界では珍しいらしく、クラウドが少し見たことがある、という程度だ。だからこそ今の声は素直に嬉しい。
やはり好きだから持っている、自分の身を預ける武器のことを話せるのは。

「ちょっと見せてくれ」
「構わないが、汚すなよ」
「誰に言ってんだよ」

悪くない、な。




(120610)
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -