Main

Start++


さらさらして、柔らかいウェーブのかかった長い髪が目の前で揺れる。
私のとはちょっと違う縦にくるんとなった髪先が、歩く動きに合わせていっしょに跳ねているように見えた。

シルヴァラントの街全体が遺跡のような、穏やかな風が風車を緩やかに動かすアスカードの街並みにゼロスがいることがちょっとだけ不思議に思った。

ゼロスはいつもふらふらしてて、なんて言われているけれど仕草一つ一つがとてもきれいでやっぱり貴族さまなんだな、と私は時々感じる。

テセアラの神子は、私とは違ってお金持ちで貴族さまで、でも私と同じで世界でただ一人の神子だった。

世界で、たった一人の。

「なあコレットちゃん、何買うのか聞いてた?俺さま、長すぎて途中から聞くのやめたんだよなあ」
「うん、私もあんなに覚えられないから、メモとってたんだ」
「さっすがコレットちゃん!んー、どれどれ…うわ、こりゃ二人で持てるか…?」
「ごめんね、私が二人で行きたいって言ったから」
「いやいや、なーに言ってんのよ。全然、コレットちゃんなら大歓迎!ハニーに荷物持ちなんかさせないぜぇ〜?俺さまにまっかせなさい」

楽しそうに、いつものようにゼロスは笑う。でもね、私は神子だから。
だから、わかるの。ゼロスは私と同じ。世界で一人しかいなかったはずの、違う世界の二人の神子。

笑うことで隠してる。
笑うことで諦めてる。
笑うことで、泣かないように。

泣き叫んでも足掻いても、私たちは"神子"から逃れられない。

だから、笑わないといけなかった。
世界の救世主でもある神子が笑っていないといけなかった。運命のように、義務のように。使命として。

「……ごめんね、ゼロス」
「…コレットちゃん?」
「私、神子だから。わかっちゃうの。ゼロスも神子だからかな。……無理して笑ってるの」
「…………」
「ううん、無理なんてしてない。笑っていないといけないよね。泣きたくても、逃げたくても、…私もそうだったから。無理しなくても、自然に笑えちゃうようになったから…」

ゼロスが息をのんだのがわかる。
部屋の中で二人っきりとかじゃなくて、街に買い物に出たときに交わす日常の会話。
特別なことじゃない。特別なことにしちゃいけない。
だから他愛のない話のように聞こえるように。たち止まったりしないで歩きながら話してる。

そんな私に合わせてゼロスも隣で歩く。
私もゼロスも、言われたら困る話題かもしれない。

隠して隠して隠していたいから。

それでもあえて話題にした。
ほんとは気づいてほしいから。

「…怖かった。人間はみんないつかは死んじゃうけど、神子はみんなよりも早く死んじゃうことになる。世界を救うために」

よそよそしい村の子供たち、「神子さま」と呼ぶ家族。
お父さまやおばあさまは私をちゃんと"コレット"として見て呼んでくれた。
けれどどこか虚しかった。

嫌いじゃなかった、でもいつか私が"救って"私を"殺す"世界。

納得してた、生まれたときから神子であることとその定めを。

「……嫌だったわけじゃない。世界が救われたら、豊かになってみんなが今よりは幸せになる」
「…そう、だな」
「でもその代わりテセアラが…えーと、衰退世界、になっちゃうけどね。……ゼロスはいた?」
「いたって、なにが」
「"神子"じゃなくて"ゼロス"を見てくれる人。」
「俺を…?……さあ、どうだったかね」
「私にとっては…お父さまやおばあさまだったけど、一番は…ロイドだった」

繁栄世界テセアラ。
シルヴァラントの神子である私のように生まれたときから死ぬ定めじゃない。
今だからこそわかるけれど、私が使命を全うしていたなら、ゼロスも神子として旅に出ないといけなかった。

同じ運命。それが始まるときと終わるときが異なるだけの。

「ロイドはね、ほら、村の外れでダイクさんと住んでるから。ロイドにとっては人間もドワーフも神子も何も違いなんてなかったみたい」
「それは今も変わってねーな、さすがロイドくん」
「『神子なんて関係ない、コレットはコレットだろ』……ロイドには何気ない言葉かもしれないけど私はとても嬉しかったんだ」
「…神子なんて関係ない…ね」

私が求めていた言葉だったのかも知れない。嬉しくて嬉しくて、あのとき初めて心から笑ったような気がした。

孤独とそう言われればそうかもしれない。

「あのとき、まだ子供だったあのときに壁なんて最初からなかったようにロイドが笑いかけてくれた瞬間から、私は一人じゃなくなった。そしてね、ゼロス」

並んで歩くゼロスの手をそっと握る。
びくん、とちょっとだけびっくりしたようなゼロスの振動が伝わる。

「な、な、なによ〜コレットちゃん、」
「ロイドやリフィル先生やジーニアス…たくさんの仲間。私は一人じゃない。でもゼロスがいたから私は孤独じゃなくなった。ゼロスが神子って知ったとき、私は喋れないし感情も閉ざされていたけれど…」

たしかにシルヴァラントでは神子は一人。でもテセアラも合わせれば同じ宿命が二人。
繁栄と衰退、環境は違うけれどたぶん重みは一緒で。

「それでね、同時に感じたの。ゼロスは……泣いてた。笑って笑って、ごまかして、拒絶してる」
「コレット、ちゃん、……言わないで」
「ううん、だって私もそうだから。そうだったから。ねえ、ゼロス。今度は私が光になる。私が"神子"だからかもしれない。ゼロスが"神子"だからかもしれない。でも私は

"ゼロス"が好きだよ」


長くてきれいな紅い髪の毛で顔は見えないけれど、繋いだ手に伝わる小さな震えと、それでもぎゅっと握ってくれる。


拒絶して傷ついて恨んで自分を蝕む。
そんなあなたと私は共に歩いていたい。


手を繋いで運命を一緒に。







(120610)
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -