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がん、と頭をぶつける。思わず痛ぇ、と声を漏らしても目の前のこいつは労りもしない。ただいつもの真面目な顔のまま。瞳だけは確かな欲情で満たして。
欲情している。俺に。ああ、可愛い奴。仏頂面は変わらず、だが余裕なんか残っていない。そんな表情。はあ、と熱く短い息が首もとにかかりぞくりとする。こいつの息はいつだって熱い。涼しげな外見に反してきっと中身は燃え盛る炎のようなのだろう。だから体温は低くても息は熱い。このことを知っているのははたして何人いるのか。俺もお前もこの世界では有名人で、だけどそれだけだ。誰もこんなことは知らない。当たり前だ。知られてたまるか。俺に欲情するお前なんて俺だけが知っていればいい。男に盛るなんて醜いこと、綺麗なお前がやっているなんて。誰が教えてやるかよ。

「……っん、」
「…今日は、上の空だな、跡部」
「て、づか、ぁ」

お前のことしか考えてないのに、上の空とは心外だ。何を思ったのか、今更後頭部を撫でられる。
少年の手。でも男の手。テニスラケットを握る、豆だらけの手。傷だらけで固くて日焼けもしている。それでも俺の指に絡むこいつの手はひどく綺麗で目を反らしたくなる。この俺様が。

知ってるか、手塚。
顔も手も中身も綺麗なお前が、熱く醜い感情をぶつけてくるときが一番興奮する。光栄だろ、なあ、手塚。

馬乗りになるこいつの腰を掴み引き寄せる。シャツに忍び込ませて擦れば身を捩られる。筋肉のついた肌は柔らかくはない。だが代わりに触り心地は俺に馴染む。

「待て、跡部」
「なんだよ」

今日は、とどこか切なげに発した言葉ごと食べるように唇をふさぐ。
後頭部に添えられていた手から力が伝わる。先程打った場所が鈍く痛みが広がって眉間に皺が寄った。痛えよと睨みつければ舌を絡みとられる。機嫌を取るつもりらしい。上顎をなぞれば鼻にかかった声が小さく上がる。
俺を抱きたくてたまらないんだろう。体内にある炎が漏れだして俺にまで感染してくる。
こいつとの情事はいつも熱に浮かされたように熱い。その理由が俺だと思っていたらお前だったなんて。ちりちりと焦がすような熱が情熱なら。俺もお前もいつか燃え上がりすぎて死んでしまうだろうか。でもそれも悪くない。お前がいるなら、あとテニスがあるなら。くだらない、そんなことすら思わないくらいには。
ちゅ、と俺たちには不釣り合いな可愛いキスをして離れた唇はそのまま下に下ろす。

微かな汗の匂い。そうだった、シャワーも浴びず押し倒されたんだった。身目や言動から想像されるのとはかけ離れるほど意外とせっかちなところは、情事のときも変わらない。
手塚の匂いに満たされる。それだけで気持ちよくて頭がおかしくなりそうだ。俺も大概だ。人のことは言えない。
腰を撫で付けていた手を手塚の首に絡ませて耳元に唇を近づける。

「抱けよ、手塚」

俺を壊すくらい。
お前になら、本望だ。

艶を増した瞳にこの上なく昂られる。溶けてしまう。溶かされる。

知ってるか、手塚。
どうしようもなくお前が好きだ。
光栄だろう。お前も同じくらい俺が好きだもんなあ、手塚。



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