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※日記に載せようと思っていたものなのであまり小説っぽくはないです



なんとなく見知った顔を見つけ、なんとなく集まった食堂の片隅とはいえないくらいには中途半端な場所にあるテーブルに六人が食事をとっていた。
個々にいても目立つ彼らが集まればそれだけで注目の的になるというのに、当の本人らはそれに気づいていないのか、或いは慣れているのかいつもの変わらない雰囲気のまま食事はすすんでいる。
ただ少しだけ違うのは、レンの向かいに座っている音也がまさに今レンを見つめて黙っていることだった。
その眼差しにら妙な居心地の悪さを感じていたらしいレンはパスタを絡めたフォークを置いて、騒いでいる翔や那月を横目に音也に目線を合わせる。
ハンバーグ定食(大盛)なるものを咀嚼していた音也は、レンと目が合ったことで自分が暫くレンを見ていたことに気づいた。

「イッキ?オレの顔に何かついているかな?」
「ん、え?」
「そんなに見つめられると、少し照れちゃうな」

台詞とは反対に照れているとは思えない柔らかな声色でレンは音也に問いかける。

「え、あぁ、ごめんごめん。レンの髪って長いじゃん?食べるとき邪魔じゃないのかなーって」

レンのオレンジにも見える鮮やかな茶色の髪は肩にかかるほど長く、さらりと流れる前髪は耳にかけていないほうはその長さゆえ、時折瞳を隠してしまうほどの長髪だ。

確かに食事の際には音也の目から見れば邪魔なのではと思えるのだが、慣れているレン自身はあまり気にならないようで少しきょとんとした表情になる。

「いや、大丈夫だよ」
「でもさあ、なんか髪の毛も食べちゃいそうだよね」
「だったら、結んだらどうですかあ?」

ふわっとした優しげな声色が不意に二人にかけられた。そこに目を向けると話を聞いていたらしい那月がはい、と何故か音也に可愛らしい白のボンボンが付いたゴムを渡してきた。
何故17歳の男子である彼がそんな可愛らしいものを持っているのかは彼の性格を考えれば今更疑問にもならないが、どうして今持っているのかは少し気になる。

「ああ、最近昼食のときに音也くんがレンくんのことを見ていたので長い髪の毛が気になるんじゃないかと」

那月の言葉に「お前にしてはよく見てんな」と翔が口に出さずとも表情に現しているのが見てとれた。
クラスの違うメンバーであるが故に頻繁にこの六人で昼食を共にすることはない。
その中で気づいたのだから那月が悟いのか音也が分かりやすかったか、まあ後者かな、と音也は自分の分かりやすさに苦笑した。
それを全く気にしていないのか気づいていないのか、ゴムを音也に渡した那月はほわわんと笑いかけた。

「レンくんの髪の毛結んでみたかったんですよね、音也くん」
「は?ちょっと那月」
「レンくんの髪、長くてさらさらですからきっとなんでも似合いますよお」
「なんかずれてないか?那月、多分音也は…」
「たしかに、いじりがいはある長さですね。女性であったならば一度触ってみたいと思うのかもしれません」
「そうか、七海が時折渋谷の髪で色々な髪型を楽しんでいるのは、女子なりの遊びの一種なのだろうか」
「えぇ、トキヤと聖川まで…」

翔が那月とトキヤを交互に見てため息をついている中、音也はてのひらに乗っている白いボンボンを眺めてからレンに向き合った。
レンは既にパスタを彼の見目にしては多い量の半分を食べ終わっていて、成り行きを眺めていたようだ。

「じゃあ、さ。俺が結んでいい?」
「別に構わないけど、そんなに気になるのかい」
「俺がレンみたいに髪の毛長いわけじゃないからかもだけど。うーん、ポニテでいい?」
「イッキの自由でいいよ」

レンの背後に回った音也は手櫛で長い髪の毛をとかす。髪を弄られている間は食事を続ける気がないレンに気づいて素早く一つに纏めてゴムで結ぶ。
可愛らしいボンボンで艶のあるポニーテールが出来たことによっていつもは隠れているうなじが姿を現した。
ほのかに香る甘いにおいは香水のせいか、レン自身のにおいなのか。レンに近づけば近づくほど甘いにおいは強くなっていく。
鼻腔を擽るそれに引き寄せられるように音也は無意識にうなじを顔を寄せていた。

「イッキ、もういい、っ痛!?」

レンの耳元でガリ、と音が聞こえたような気がしたほど強い外部衝撃だった。
その一連の動作を見ていた翔たちのびっくりしたような声と、結ばれたレンの長い髪が跳ねたのを見て音也は我に帰った。

「音也、貴方何してるんですか!」
「おい神宮寺、血が出ているぞ」

レンはうなじの辺りを押さえて、あまりに衝撃的だったのかぽかんと音也を見つめていた。それでやっと、音也は自分が何やったのか、何をしたのかを把握した。

「………う、わ、うわあごめん!レンごめん、痛かったよね大丈夫!?」
「……え、…あ、うん。痛かった…けど」
「ほんとごめん!なんか、甘くていいにおいするから思わず…」

口に広がる微かな血の味。無意識にしてもやりすぎだ、血が出るほど、人間の急所近くを噛んだなんて。

「だからってなあ!噛むやつがあるかい!」
「もーごめんって。っていうかなんで翔が怒ってるのさ」
「レンがびっくりしすぎて固まってるからだろ。つーかお前も口拭けよ、血付いてるぞ」

翔に手渡されたナフキンで口を拭けばうっすらと付いていただけで安堵した。いかに音也でも、友人を噛んで血がべっとりと付いていたら暫く立ち直れないかもしれない。
いや、今でもわりと落ち込んでいるのだ。自分ですら、びっくりしている。

レンをちらと見るとこちらもナフキンでうなじを拭いていて、更に申し訳なくなる。噛んでしまったのは音也にも予想外だったが、たしかにいいにおいだったのだ。少なくとも、無意識に近づいてしまうくらいには。

「レン、大丈夫?」
「うん、もう平気だよ。イッキってもしかして噛み癖でもあるのか?」

既に復活していたレンが興味深そうに音也に問う。音也に悪気がなかったのはもう察しているようで、先程の件があっても警戒することなく何時も通りだ。
レンの大人な対応に音也は安心からか短く息をついた。自分がされた側ならば、悪気はなくとも多少は警戒するかもしれない。この察しの良さと柔らかい対応が、彼がモテる一つの要因なのかもしれない。

「いや、そんなことないんだけど」
「うーん、じゃあ、なんだろうね。今日オレ香水首もとに付けてないんだ。もしかしてご飯の途中だからかな?」
「そうなのか一十木。そもそも神宮寺、貴様が食事時にそんな鬱陶しい髪をそのままにするからだ。食事時ぐらい括っておけ」
「おや、さっきは心配してくれていたのに。まったく冷たいやつだね」
「ち、違うよ!ご飯みたいなにおいじゃなくて、レンから甘くて、こう、なんか脳に直接くるっていうか」

レンと真斗のいつもの口論が始まりそうになって音也は慌てて弁解した。二人の言葉を遮るように発した言葉にトキヤが絶句した横で那月がほわわんと口を開いた。

「ああ、じゃあ音也くんはレンくん自身の香り、フェロモンに当てられたんですね」
「へ?」
「え、シノミーどういうことだい?」
「相性がいい人の香りって、とってもいい香りに思えるらしいんですよお」
「でも那月それって男女での…」
「いい香りすると食べちゃいたくなりますから、音也くん噛んじゃったんですねえ」

どちらの意味での食べたくなる、なのか、聞く勇気がある人はおらず、沈黙が訪れる。

「え、じゃあもしかして俺ってレンに」
「あー!もう早く食わねーとご飯冷めちまうぞ!」
「そうですね時間もあまりありませんしさっさと食べてしまいましょう」

何事もなかったように食事が再開される。音也くんとレンくん仲良しさんで嬉しいです、という那月に言葉にそうだな、と翔は返すのが精一杯だった。




cresc. molto

(鼓動が早くなって)



(120607)
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