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部屋には砂時計があった。
アンティーク調の、美しく繊細な施しをされそれでもどこかシンプルな小さい砂時計。銀色の装飾はどこかカミュを思わせる。さらさらと静かに流れていく砂は薄い水色に輝いていて、まるでカミュの好きな白砂糖のようだった。
ぽつんと置かれた小さなインテリア雑貨。けして派手ではないのに、視界に入るとどうしても魅いってしまう。
これはセシルの私物ではない。
この部屋にはセシルとカミュしかいないのだから必然的にカミュのものなのだろう。
一日に一度は、セシルの翡翠の瞳はそれを映す。
不思議なことに、その砂時計はいつだってさらさらと下へと流れ落ちていた。

ぱたん、と至極音を立てずに扉を閉めてカミュが帰ってきた。静かで優雅な立ち振舞いはクセのようだと言っているのもあって、いつだってセシルは猫のように耳を立てていなければいけなかったけれど。
先輩が帰ってきたら、すぐさま、挨拶を。
教え込まれたままに「おかえりなさい」と部屋の中から声をかけたセシルに短く返事をして、身に付けていたコートをかける。

「カミュ…あっ」
「どうした?」

小さく声を上げたセシルの瞳はあの砂時計を見つめていた。
どうしてだか、一人でいるときは気になって仕方がないのに、カミュといると思い出しもしなかったのだ。
今もまだ、砂は流れ落ちている。

「あの、この砂時計なのですが、これはカミュのですか?」
「そうだ。職人が施した美しくもどこか儚い一品だ。中々の高級品だな」
「そう、ですか…。美しいです。とても。でも…」
「愛島」
「はい?」
「それには、触るなよ」

子供を咎めるような声色に、セシルは何の疑問もなく頷いた。
カミュが言うのだから触らないでおこう。きっと、彼の大切なものなのだ。そう思っても、どうしても目線は砂時計へといってしまう。カミュのいうとおり、触ろうと思わない。触ったこともない。
では、何故。

砂は流れ落ち続けていた。



(131205)
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