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穏やかな風が優しく吹いていた。それに乗せられてそよそよと草花たちが揺れている。気持ちの良い午後に、公園の野生ポケモンたちも朗らかに過ごしているようだった。
ヒビキはベンチに座ってその光景を微笑ましく眺めていた。虫取り大会のない日はこんなにも優しい時間が流れていた。虫取り大会がある日は、賑やかな人やポケモンたちの声があってそれはそれでヒビキは好きだけれど。
何度か大会には出たものの、まだ一等が取れてないのは思わず周りを見るのに夢中になってしまうからかもしれない。
人が、ポケモンが、楽しそうにしているとヒビキはそれだけで幸せだった。今もこうして手持ちポケモンの何匹かは公園に離して遊ばせている。
ウソッキーだけは何故だかヒビキの座るベンチの横に居たけれど。穏やかな性格の彼は一緒にみんなと転げ回るよりヒビキと一緒に見守っているのが性にあっているらしい。

このままだと眠ってしまいそうなほど穏やかな時間だ。うんと背伸びをしたヒビキは、ベンチの後ろの柵の向こうに小さな白い花たちが咲いているのを見つけた。

「えっと…なんだっけ。…シロツメクサ?」

細く白い花弁が一つの花に沢山集まって一見わたげにも見える小さな花だ。その周りにはたくさんのクローバーが地面を埋め尽くさんほど隙間なく生えていた。
これだけクローバーがあれば、やることはただ一つだ。
微睡んでいた頭が一気に覚醒したヒビキは、踏んでしまわないように近づいてしゃがみこんだ。

「よーし、四つ葉見つけるぞ。ウソッキー、みんながはしゃぎすぎてたら知らせてね」

にこやかな顔で頷くウソッキーは、序盤から仲間になったからかみんなのお兄さんのような存在だ。頼もしい。

四つ葉を見つけたらどうしようか。
しおりにして母にあげてもいいし、自分でお守りに持っておくのもいいかもしれない。
迷ったらコガネの花屋さんに聞こうかなと上機嫌でヒビキは優しくクローバーたちを指でつついた。











ヒビキの言うとおり、仲間のポケモンたちを見守っていたウソッキーが身動ぎをしてヒビキは顔をあげた。なにかあったのかとウソッキーの目線を追うと、見慣れたシルエットが見えてきた。

「あれ、ヒビキくん?」
「コトネちゃん!」
「じゃあ、やっぱりあっちで遊んでるポケモンたちはヒビキくんのだったんだね」

相棒のマリルを連れて、コトネがぱたぱたと走りよってきた。
挨拶もそこそこに、しゃがみこんでいるヒビキを不思議そうに見つめて首を傾げている。

「ヒビキくん、なにしてるの?」
「えっとね、…っあ!」
「え?なになに?」
「ほら、コトネちゃん。四つ葉!」
「四つ葉…?あ、ほんと!」

ぷち、と慎重に引き抜いたクローバーはヒビキの手の中にあった。そのクローバーは葉がキレイに四つあり、文字通り四つ葉のクローバーだった。色も濃い緑色で葉も均等な大きさでなかなかにいいクローバーである。
ヒビキが持っている四つ葉のクローバーに、コトネが自分のことのように目を輝かせて喜んでくれていた。

(…あ、そうだ。)

そんなコトネの姿に、ヒビキも自然と表情が緩む。コトネこういうところがヒビキは好きだった。一緒に泣いて、笑ってくれるコトネが。

「コトネちゃん。はい」
「えっ?」
「コトネちゃんにあげる」

突然の提案にきょとんとするコトネの手を取ってそっと四つ葉のクローバーを乗せた。 幸せの象徴であるそれはコトネによく似合っている。

「ほんとに…?でもヒビキくんが見つけたのに」
「うん、コトネちゃんが貰ってくれたら、僕も嬉しい」
「そっかあ…。ありがとう、ヒビキくん。あ、じゃあね、ちょっと待ってて」

そう言うと、コトネは先程までヒビキがしていたようにしゃがみこんだ。ヒビキのように緑ではなく、白を集めていたけれど。最初は何をしているのが検討がつかなかった。コトネの背後からだんだんと形になっていくそれを見て、ヒビキがあっ、と声を上げたときには既に完成していた。

「花の冠…?」
「うん!シロツメクサがあるなら、これじゃないとね!」

コトネの手には、可愛らしいシロツメクサの花の冠があった。女の子らしく手先の器用なコトネがつくった冠は、とてもキレイに出来ていてちょっとやそっとじゃほどけたりもしないだろう。ヒビキがやろうもんならこうは上手くはいかない。
売り物だと見違うほどの冠を、コトネはヒビキの頭に乗せた。

「四つ葉のクローバーもらっちゃったから、代わりにこれあげるね」

ふわ、と笑うコトネはまさに花が綻ぶようだった。ヒビキの頭に乗せられた冠は、むしろコトネにこそ似合うのだろう。

「…ありがとう、コトネちゃん。大事にする」
「うん、でも、クローバーはしおりに出来るけど花はそうもいかないね」
「じゃあ、枯れたらまたコトネちゃんがつくってよ」
「わかった、約束ね?そうだ、シロツメクサにはね、約束っていう花言葉があるんだよ」

これは守らなくちゃね!と言うコトネの服を、マリルも欲しいのかちょいちょいと引っ張っていた。 それからマリルの分も作りはじめたコトネに、ヒビキは疑問に思ったことを聞いてみる。

「ねえ、コトネちゃん」
「なあに?」
「四つ葉のクローバーにも花言葉ってあるの?」

何故かぼん、と音がするくらいに一気にコトネの顔が真っ赤になった。あー、だの、うーだの言葉にならない声を出してゆでダコになったコトネの反応がよくわからず、ヒビキは首を傾げて答えを促した。

「コトネちゃん?」
「えっと…し、しらない!」
「えー、うそだあ。知ってるでしょ」
「うぅ…知らないもん」

耳まで真っ赤になってしまったコトネに、ウソッキーがやれやれといった風に肩を下ろした(ようにみえた)。絶対に知っているとヒビキは確信をもつが、知らないと言われればしつこく聞くわけにもいかず。あとで花屋にでも聞こうかと、いまだ真っ赤のままマリルの冠をつくるコトネを見つめた。
ヒビキが女心を悟るのはまだまだ先である。






四つ葉のクローバー
(わたしのものになって)





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