※日記ログ
地面に叩きつけられた背中が痛みに軋む。受け身を取ろうにも、馬乗りになられた状態ではそれすらままならず、打撃を直に受けた。
その衝撃に顔を歪ませても、こちらのことは構わないといった様子の跡部は濡れた長い前髪のせいで表情は見えない。
上から落ちる雨雫と、下から染みる雨水にどちらも濡れ鼠のようだ。
「…、跡部」
いきなりどうした、と問いかけてようやく顔を上げた跡部は湿った瞳で俺を睨み付ける。
眉間に寄ったシワはそのままに、手塚ぁ、と掠れた低い声で呼ばれる。
「跡部、いい加減どいてくれないか」
「…冗談じゃねえ」
「おい、跡部」
「冗談じゃねえぞ、手塚、なんで俺が、俺様が」
灰色の空と跡部しか見えない状況に、俺のほうが冗談ではない、と言いたかった。言えなかった。
跡部の顔が近づいて、何故か苦しそうな表情のまま、唇が触れた。
冷たい水に奪われたはずの体温が触れたところからまた熱くなる。
子供のキスのような、触れるだけの接触に仕掛けた側であるはずの跡部がぱっ、と離れる。
「…、手塚ぁ」
騒音に消されそうなほど小さく呼ばれた名前に、跡部の頬に手を伸ばす。
ざあざあと降る雨は、まだ止みそうにない。
(120606)