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言葉で言い表すなら「闇に引きずりこまれる感覚」というのかも知れない。実際には、まったくそんなことはなくてただの夢の中の話だけど。
現実と、夢の境目が曖昧になったころ、それは訪れる。頭の中に警報が鳴って、それ以上向こうへ行くな、とでも言うように少しずつ覚醒していく。それなのに、体は金縛りにあったみたいに動かなくて、自分が目を開けているのか閉じているのかすらわからない。そんな動けない俺の体を意識ごと闇に引きずりこまれていく。
わかっているんだ。目を醒まさなくちゃ、このままじゃ危ないって。たかが夢の中の闇の手に、捕まったらきっと戻れない、って。何故だかわかるんだ。

つまりはそういうこと。

こうなったら自力で抜け出すのは結構つらい。なんてたって、寝ている自分を金縛りにあった体で起こさないといけなくなるから。
一瞬でも諦めようとしたら警報が煩いんだ。頭の中で響いて響いて、その大きさに吐き気がするほど。でもこれは俺が俺自身を救うための警報だから文句は言えない。

だって、捕まったら戻れないのだ。

怖くて怖くて堪らなくて、ああ、俺死にたくないなんて当たり前のことを思って。
それでもまた夜になれば眠くなるし俺は素直にその睡魔に従うんだろう。
もがいてもがいて、みっともなく死にたくないと喘いで。
誰か隣で戦ってくれる人がいればまた違うのかもしれないけど。

「ねえ、トキヤ」
「なんですか?」
「今日もバイト?遅くなる?」
「そうですね、ああ、音也。今日はピーマンの肉詰めですので、私がいないからって捨てないように」
「げっ」

「……ねえ、トキヤ」
「…さっきからどうしたんです?」
「俺が魘されてたらさ、叩き起こしてほしい」
「…ええ、構いません。でも、貴方が魘されてたところなんて、見たことないですよ」
「うん、そうだろうね」

だって、金縛りにあってるからね。とは言わずにこりと微笑んだらトキヤは不思議そうに首を傾げた。

俺が頼んでいるのは声も出さず身動ぎもせず、それでも悪夢と戦ってる俺に気づけ、ということなんだけど。無理だってわかっている。けど。

お前ならわかる気がするんだ。いや、わかる時がくる。そのときは俺がお前を叩き起こすから。
この悪夢を消し去る力を俺に下さい。




(不安と絶望の具現化)
光が強ければ強いほど、闇も、ほら。



(131205)
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