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なにが欲しい?と聞き慣れない独特のイントネーションで問いかけられた。耳に心地好い声はいつもより冷たくも暖かくも感じた。そんなもの、決まっている。強さ。強さ、と言えばその人は首を傾げてこういった。強さを手にいれて、なにがしたいん?今度は俺が首を傾げる番だった。俺はただ強くなりたかった。強くなって、強くなって、あの人たちを倒して。倒して、その後は。ひんやりと胸の中にある心臓に黒いものが落ちた気がした。そこから血をかけめぐって、手足が冷えていった。頂点に立つ俺。その為に強くなりたかった。はずだった。あの人たちは強い。俺には手が届かない。近くにいるのに、触れられない。わからなかった。強くなって、なにがしたいかなんて。そんなの決まってる。でも、その後は?上にはたくさんの人たちがいた。下にもたくさんの人たちがいる。でも隣には誰もいなかった。
ねえ、白石さん。俺は、なにがほしいんスかね。俺を見つめるその人の目が、細められた。あ、見たことがある。その目は。小さいころ、少しのことで癇癪を起こした俺を見ていた母さんの目。それと一緒。母さんはいつも俺の味方だった。すぐ泣いたり怒ったりする俺を見捨てなかった。どうしたの。大丈夫。と、俺が自分でもわからないことをわかってくれていた。優しい目。
堪忍な。その人が困ったように笑って言った。

「ええねん。答えは求めてへんよ。切原クンは、あまりにもがむしゃらすぎんねん。や、悪いことやないで。ただ、前や後ろだけやなく周りも時々見渡して欲しいんや。強さは、何も力だけやあらへんよ」
「そんなの、わかんないッスよ。俺は、強くなりたくて、強くなるために…」
「うん。大丈夫や。それを否定してるわけやあらへん。切原クン、知っとるか?自分、今震えてんねんで」

暖かい手が、俺の手を握る。冷たいわ。と言いながらぎゅっと握ってくる。血が逆流していく。体温が流れて俺の手も温かくなっていく。それは心臓にあった黒いものを跡形もなく消し去っていった。びっくりして、顔をあげるといつものように柔らかく微笑んでいた。

「怖いんやろなあ。でも、それを切原クンはわかってへん」
「怖い…?俺が?」
「せやで。切原クンは優しい子やなあ。みんなのこと、大好きやねんな。きっと、それをみんなはわかってくれとる。大丈夫や、キミのことを置いていこうなんて誰も思ってへんよ」

俺もいるしな!と笑う白石さんが強いと言われる理由が、少しだけわかった気がした。



(121014)
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