金属同士が触れ合う鈍い音で意識が浮上した。その勢いのまま、目を開けてもまだ暗闇のままだった。
ぼんやりと覚醒しない頭で身動ぎをすると、体のどこかしこも痛みが声をあげた。
どこかにぶつけたか、階段を転がり落ちたかのような痛み。
それに顔をしかめる。痛みの理由もわからない。また俺なんかしたか。
とりあえず起き上がろうと腕を動かした。動かしたはずだった。
「………は?」
腕はまったく動かない。代わりにさっき聞いたあの鈍い金属音がした。
ガシャガシャと腕を動かそうとするたびにそれが阻むみたいに音が鳴る。
ここまでくるともう理解はしていた。
辺りを見回すと、見慣れたわけじゃないが、何度か見た風景だ。
…また投獄されたのか俺は。
たしか俺の住む区域とは違うが同じ下町で、腐った見本みたいな騎士が若い母娘をいたぶっていたのを見かけて、それで…。
記憶を思い出すまでもなかった。思い出さなければよかった。
胸糞悪ぃ。
あんなに腐った連中も久しぶりだった。
それにしても、あのときは武器を持っていたし母娘を逃がすために多少戦ったが、何もここまですることないだろ。
ため息をつきたくなった。
腕を後ろに固定して手枷はめるなんざ、そんなに俺が危険だったか。もしくはただの臆病者か。
こっちは一人で、あっちはぞろぞろと十人ほどか。最初は二人しかいなかったのにどこに隠れてたんだか。
手枷はかなり丈夫なようで動かそうとする度に痛みが走る。
とりあえず大人しくしとくか、と思ったのも束の間、何人かの足跡と共に牢屋の扉が開く。暗くてよく見えないが、声からしてあの時やりあった連中らしい。
「お?やっと起きたか」
低い男の声に吐き気がした。これから起こるであろうことも、簡単に想像が出来て舌打ちを漏らす。
いつだって下町は薄汚いままだ。
そんなもん、昔から、わかっていたことだけど。
(少なからずショックを受けた)
(ああ、まだオレは)
(人間に希望を持っていた)
(120927)