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がさがさと草を掻き分けでかい木の根っこにひっかかりどこかしこも緑と茶色しか目に入らない森の中で小さな赤を見つけるのは難しい。すごく難しい。

「あーもう!なんだってこんな森ん中で指輪なんか落とすんだってばよ!」
「うっさいわよナルト!」
「だってサクラちゃん、ここで指輪探せなんて無茶だってば」

二人とも土泥にまみれて一体何時間やったかわからない。長い髪を一つ括りにしたサクラちゃんは泥だらけでもかわいい。けどこの炎天下に長時間森の中でひたすら指輪を探す作業に飽きと疲れがきてもやる気はでない。
たとえかわいいサクラちゃんがいたとしても、だ。

「仕方ないでしょ依頼なんだし。なにより結婚指輪っていうじゃない。見つけてあげないと可哀想よ」
「えー、でもそんな大事なものを落とすくらいなんだからそんな大事なもんでもないんじゃねーの?」
「四の五の言わない!結婚指輪なんだから大事に決まってるじゃないの。あんたはまだガキだからわかんないのかもしれないけどね」

どうやらオレとサクラちゃんの間では結婚指輪にたいしての考え方が違うらしい。価値観が違う、ってやつだな、うん。
女の子ってわからない。

「あ、サスケくん」

川近くを手分けして探していたオレたちは三人が三人とも揃って泥まみれ、汗だらけ。向こうから歩いてくるサスケは珍しく疲れた顔だった。

「そっちはどうだった?サスケくん」
「…いや」
「あ、あー…サクラちゃん、サスケ、ちょっと休憩しようってばよ」

サスケはオレと同じ男だからきっとこの依頼内容にうんざりしてるに違いない。結婚指輪とか興味なさそうだからなこいつ。オレもだけど。

「もう、だらしないわねー」
「…サクラ、オレも少し休憩してくる」
「え、サスケくんも?そっか、私はもう少し探してから休憩しようかな」
「サクラちゃんあからさますぎるってばよ」
「なんか言った?」
「いやなんでもないです」
「行くぞナルト。サクラ、お前も早めに休憩挟めよ」
「お、おう。サクラちゃん、あっちの川のほう行っとくから」

先に進むサスケの後ろを着いていくとこれまた珍しくため息が聞こえた。
こんな森の中でしかも指輪なんて小さいものを探すなんて気力がなければ相当つらい。そしてその気力がないオレとサスケはまじつらい。

「なんでサクラはあんなに張り切ってんだ。そもそも大事なもんなら落とさねえだろ普通」
「…わかるってばよ」

でもサクラちゃん曰くそうじゃないらしい。やっぱりサスケはオレと同じ男だった。

川の音が少しずつ近づいてくる。
オレはさっきからもう上着を腰に結んでいるほど、今日は暑くてたまらない。もう川に飛び込んでもいいくらいだ。
でもそんなオレの思惑とは裏腹に、目に移った川はみずみずしいキレイな水がすごい勢いで流れているやつだった。

「…さすがに流れが早いってばよ」

飛び込んだから暑さどころか命が無くなりそうな勢いだ。
自分が立っているところより二段くらい下のほうを流れてる川は大雨でも降ったのかと疑うほど、忍者なオレですらちょっと危険を感じる速さに飛び込むという考えは消し飛んだ。
じゃないと消されそう。オレが。

「おいナルト」
「ん?」
「そんなギリギリに立って落ちても知らねぇぞ」
「わーかってるってばよ」

手頃な大きさの岩を見つけてそこに座る。
サスケのほうを見れば今回の任務の確認しているらしく、巻物に目を通していた。
任務の内容を知るや否や別の任務が入ったとかでいなくなったカカシ先生はこうなることがわかっていたのかもしれない。

Dランク任務:森の中で落とした結婚指輪を探してほしい。
対象物:ルビーの結婚指輪
場所:里方面上流の川近く

巻物を閉まったサスケは疲れが増したような顔をしていた。休憩しているのに逆に疲れるとは変なやつである。

「きゃあああああああああ!!!!」
「っ、今のは!」
「サクラちゃん!?」

突然聞こえたサクラちゃんの悲鳴に、目配せをして二人同時に地面を蹴った。
敵か、こんな里に近い森の中に。
距離はそんなに離れてないはずで、敵を警戒してか木の上を移動するサスケに倣う。
すぐに見えてきた桃色の長い髪の毛にほっとしたのも束の間、対峙している相手が思ってたのと違って変な声が出た。

「さ、サクラちゃん!」
「無事かサクラ!」
「ナルト!サスケくん!」
「なんで熊がいるんだってばよ!」

木の上に逃げていたサクラちゃんも信じられない様子で、敵、というより野生の熊を見つめていた。
真っ黒な毛の熊はとにかくでかくて、オレたちの二倍はありそうでしかもパワーも凄まじかった。
熊が振り上げた手でさっきまでオレがいた木に振りかぶり、その衝撃で木は傾いて大きな音を鳴らしながら崩れていく。
これにはオレもびっくりしたけど相手はたかが熊。

「なんで、この森はこんな大きな熊なんていなかったはず…」
「サクラ!そんなのは後だ逃げるぞ!」
「え、逃げんのかよ!」
「当たり前だ、この辺の動物は殺すな、つってたろ。オレは殺さないで仕留める自信はないぜ」

そういえばそんなことを言われたような気がする。
サスケとサクラちゃんの後を追って徐々に熊との距離を伸ばしていく。
木を薙ぎ倒しながら向かってくる熊にはたしかに体術よりも忍術がいいかもしれない。
でもオレは忍術なんてわかんねーし、たしかサスケの得意忍術は火遁だ。こんな場所では山火事になる。
どうしよう。どうしたらいいんだってばよ。すごい音を鳴らしながら迫る熊を振り返る。ん?なんか、ありえないものが見えたぞ。

「お、おい、サスケ!」
「なんだよ!」
「あれ、熊の指!」
「指?指がどうし…サクラ、熊の指見てみろ」
「えっ?…あああ!指輪!っていうかなんで!?」

オレたちは一斉に立ち止まって目配せをした。なんでかはわからないけど、熊の指、つーか爪にはオレたちが必死こいて探していた指輪がはめられてた。
意味がわからないってばよ。でも、それが依頼の指輪なら、オレたちはこの熊をどうにかしなくちゃいけなくなった。













「結局、サスケの火遁で止めをさしたわけだけどさ。これ、多分依頼のじゃないってばよ」
「……言うな、疲れた」
「なんで熊が指輪してんのよ。誰の指輪なのよ」

倒れた熊の上に座る悲壮感漂うオレたち。
青い空、照りつける太陽。ああ、夏の一日はまだまだ長い。



(120927)
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