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壁に付いた、自分の手に重なるのは同じ男とは思えへんほど、白くて華奢な手やった。それでも、毎日数えきれへんくらいテニスラケットを握る手。見た目に反して、触れた手のひらは固かった。

「忍足、何考えてるの」

耳元で、艶のある声がして、ぞくりとした。耳たぶを甘噛みされる。答えさせる気、あるんかこいつは。変な所から出とるんかと思うほど、喉から出る声は俺のやあらへんようなものが聞こえる。それを抑えるために、唇を噛む。俺、こんな声出るんか。こんな、女みたいな。そんなん、我慢せざるを得ないやろ。
目をぎゅ、と閉じる。後ろから伸びる手が、俺のを上下する。きっと、白くて華奢な手で。

「…ふ………っ、…ん」
「ねえ、忍足。動いていいかな?」
「……そ、なん…聞く、なや……っ!」

ぐい、と腰を掴まれる。ぐちゅぐちゅと卑猥な音は俺はともかく、こいつには似合わん。けど、確かに俺を抱いてるんはこいつや。ほんまやったら、あり得へん。そのあり得へんことを、俺たちはやっとる。
膝立ちしとる足が、がくがくと震える。
息が荒くなる。気ぃ抜いたら、声が出そうで。ジャージの裾を噛んだ。ああ、レギュラージャージやのに。

「……は、忍足、痛くない?気持ちいい?」
「…っ…、ぁ…ふ、じは…?」
「うん。…忍足の中、熱くて気持ちいいよ」
「そ、か…」
「ね、さっきの答えは?」

答え、…なんや?
一瞬なんのことがわからへんくて言葉に詰まってしもうた。ああ、さっきて、あれか。

「手、見とった」
「僕の?」
「自分…、手ぇキレイや…っあぁ!」
「ふふ、やっと、声出したね」

腕に、もう力が入らへんくてずるずる下がっていく。あかん、最悪や。目頭が熱くなって、目の前が滲む。俺が声出しとうないなんて、見とればわかる。わかっててやったんや。
床の表面は冷たい。やから余計に、俺の体温が高いんやと、自覚する。

「もっと声、出して」
「…悪趣味、やな…っ、自分…」
「だって、忍足ガチガチに理性で固めてるでしょ。声出して」
「いや、や…」
「どうして?僕は、忍足の声好きなのに」
「っ、あっ」

あかん、不二。これ以上体が熱くなったら、おかしくなる。
不二は動いてへん。俺に合わせとるんもあるんやろうけど、このままじゃ俺が声出さへんからやと思う。気持ちはわかる。俺でもおんなじことするやろから。やけど、出すほうにもなって、わかった。
めっちゃ、恥ずかしい。

「この体制が…かな?」
「なん、え…?や、っあぁあああ!」

頭がぐらぐらする。繋がっとる部分から、突き抜ける感覚。息が一瞬止まる。なんや、何があった。
世界が反転したみたいな、衝撃。

顔に張り付いとった髪を鋤かれる。その手は、後ろからやなくて前から伸びとった。
冷たい床の感触が手にはなくなっとって、代わりに背中が冷たかった。
滲んだ視界には、不二が見えとる。

「…っあ、あかん、この体制…」
「このほうが、顔見えるよね」
「や、不二っ、…これ、これあかん」

顔隠そうとしたら、腕を掴まれる。いつの間にか、メガネが落っこちとった。隠すもんがなんもない。顔に熱が集まるんがわかった。
床に押し倒されとる、この体制は。俺を覆い被さっとる不二は、いつもの涼しげな顔やなくて、雄の顔、やった。
不二に、抱かれとるんや、俺。

「ふ、ぁ…や、」
「動くよ、」
「ま、って、ひ、…っああっ」

激しく揺さぶられる。さっきとは比べもんにならへん。ぼろぼろと涙が出てくる。息をするだけで精一杯やった。声なんて、気にしてる暇ない。

「…っ、こっちのほうが、感じるみたい、だね」
「や、あ、ひぁああっ!あか、ん、ふ…じぃ、…っ」
「大丈夫。もっと、出して」
「ぁ、…っん…ふぁ、あ、ふじ…っおれ、変なる」

視界が歪んどる。何も見えへん。
耳には、不二の声と、俺の物とは思えへん声しか聞こえへんくて。熱いのか、冷たいのか。上か下かも、わからへん。
気づかんうちに腕が解放されとって、不二に抱きついとるような格好になっとった。まるですがり付いとるみたいやった。
突かれるのと同時に、前もしごかれとる。これはほんまにやばい。体が言うこと聞かん。目の前がちかちかしとる。

「あ、っや、…く、ぅあ」
「忍足、」

不二が何か呟いた気がした。けど、俺の意識は快感に引きずられるようにブラックアウトした。











シャワーの音で目が覚めた。目を擦って天井を見上げる。あれ、俺の家やない。どこやここ。頭がなんや、ぼんやりするわ。
ふあ、とあくびをして喉が渇いとったことに気づいた。
怠い体を起こすと、ずき、とあり得へんとこが痛みに疼いた。

「……あぁ、そうやった、やん。」

声が掠れて、いつも以上に低い。俺の物やない服は、サイズが小さいのか肌にぴったり張り付いとった。
気絶してたんや、俺。後処理はもう済ませとるらしい。髪だけが少し濡れとって、あとは全部キレイや。

「う、わ…俺もうお婿さんに行けへん」
「僕がお嫁さんに貰うから安心してよ」
「不二!…遠慮しとくわ」
「え、どうして」
「やって、最初が床とか…」
「いいじゃない、忘れられないでしょ?」

コップに入ったミネラルウォーターを手渡される。風呂上がりらしい不二は、いつも通りの、涼しげな顔に戻っとる。
飲み干したコップを俺から取り上げて、テーブルに置きにいったその足で、そのまま隣に潜り込んできた。

「ごめんね、気絶させるつもりはなかったんだけど」
「いや、…まあ、ええわ」

意図的のほうが怖いわ。
そもそも俺とお前で何で俺が抱かれる側なんか、とか色々言いたいことはあったんやけど、墓穴を堀りそうやし、やめとくんが賢明やな。

眠ろっか、という不二の言葉に、起こしとった体をベッド沈めた。隣に不二がいることで、めっちゃ気恥ずかしい。
少し触れた手が、そのまま握られた。

「こうするとね、良く眠れるよ」
「…さよか」

隣の体温のせいか、繋がってる手のせいか、微睡みに落ちていく。
不二が居るんなら、いい夢見られそうや。



(120910)
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