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がやがやと騒がしかったのはもう、少し前のこと。日が赤くなったのが窓の外からわかる。夏だからかそろそろ八時頃なのに暗くなるのは遅い。とっくに下校時間は過ぎていて、いつも最後まで部誌を書いている永四郎も、既に校門をくぐっている頃だ。

「ちねーん」
「………」
「なあ、知念は帰らんばあ?」
「……裕次郎こそ」

先程からずっと、椅子に腰かけて外を見ている知念はわんのほうを向かずに言った。長い足をもて余したような座りかたはいつものこと。いつも表情をあんまり表に出す知念じゃないけど、わんにもわかるくらい最近の知念は調子が悪い。テニスには影響がないからか、皆はあまり干渉していない。クラスも違うわんが気づいたのは、やっぱりわんが知念を見てるからかもしれん。

隣に椅子を持ってきてガタガタと鳴らしながら腰かける。知念はまだこっちを見ない。わざとうるさく鳴らしても、気にしていないといった風だ。

「最近、元気ないやっし。どうかしたば」
「ないでもないよ。ちょっと疲れただけさあ」
「疲れた?それだけかや?」
「そうどー。それだけやっさ」

嘘やんに、と思ったけど言わなかった。知念はあんまり追求して欲しくないらしい。
もどかしい。知念が困っているなら助けてあげたいのに。苦しいのなら手を差しのべたいのに。でも知念はそれを望んでない。ダブルスを組んでる凛にも、永四郎にも相談していないみたいだった。
ただ単に、本当にただ疲れているだけだとしても、最近の元気の無さはやっぱり気になる。どこか痛めてるんじゃないか、とか、何か嫌なことがあったか、とか。
知念はまだ背が伸びそうだから、成長痛だとかそんなんでもいい。頼ってほしい。わんだって、仕事はしないけど一応副部長やんに。でもそんなの関係なく、永四郎と違って頼りないかもしれないけど、わんが支えてあげたいと思ってるから。まだ、言ったことはないけど。

「知念、一緒に帰ろうさあ。疲れてるなら今日は寄り道しないし」
「…裕次郎、先に帰れ」
「っ何でよ!…一人じゃ、寂しいやっし、…知念。一人で、平気だばあ?」
「…なんくるないさあ。少ししたら、わんも帰る」
「なら、わんは知念が帰るまで一緒にいる。別に、話したくないならそれでいい。けど、一緒に居るのは、いいね?」

ふ、と知念の空気が柔らかくなった。きっといいよ、ってことなんだろう。やっとこっちを向いた知念は、困ったように笑っていた。良かった、笑えてる。
ちょいちょい、と大きな手で手招きされて、隣にいるのにわざわざ目の前に立つように促された。

「裕次郎、ぎゅーってしていいか」
「え、…うん?別に、構わんど。うおっ」

引き寄せられてやけに強い力で抱きしめられた。体がすっぽり入って同い年なのに少し、いや、しに悔しい。こんなところで知念の体のデカさを再認識するとは思わなかった。
デカい図体だけど、わらばーのように、すがるように抱きついてくる。
早くなる動悸をどうにか抑えて、無言のまま抱きしめてくる知念をあやすみたいに撫でる。家庭環境のせいか、本当は寂しがりやなんだと知ったのはつい最近だ。
知念は何も言わない。きっと言うつもりもない。けど、わんが居ることで少しでも寂しさを忘れられれば。
わんを頼って、すがってほしい。今はまだ、背中に手を回すだけで精一杯だけど。知念はわんが、守りたい。守るから。

少し低めの体温が、愛しい。



(120713)
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