微かに揺れる机に、目の前に座る甲斐クンを睨み付けるとびく、と体が少しだけ跳ねていた。俺に怒られると反射的に強ばるのだろう。それはもう幼い頃からの経験故だ。わらばーのように足をぶらぶらとしていた甲斐クン。そのせいでボールペンで書いていた部誌は少しだけ文字が歪んでいる。平古場クンに向けたコメントを書き込んでいる最中だった。
暇そうにしている甲斐クンは手持ちぶさたなのか、俺の書いている部誌を器用にも反対側から読んでいるようだ。
「なあ、永四郎、いつ終わるばあ」
「待てないなら先に帰ってなさいよ甲斐クン」
「やだ。永四郎と一緒ぬ帰るって決めちょるんど」
「なら静かにしてしなさいよ」
「でもわんゆんたくしたい。早く終われー」
毎日学校部活と顔を会わせているのに、それでも甲斐クンは俺と居たいという。彼も物好きだ。俺を畏怖しながらもなついているのはわかる。それこそ幼なじみだ、慣れている部分もある。けれど最近は特に一緒に居たがる。元々寂しがりやなところがある甲斐クンだ。単に一人なのが嫌なのだろう。なら俺じゃなくて平古場クンや不知火クンを誘えばいいのに。彼らなら快く付き合ってくれるだろうし。
そう思ってても、強く追い帰せない。俺がそうすれば、しぶしぶ彼らのところに行くはずだ。けれど、甲斐クンのことだ。また遅くまでふらふらするに違いない。そしてその甲斐クンを迎えに行くのは俺なのだ。ならば、最初から一緒に帰って寄り道をさせないほうが手間が省ける。
いや、違う。
部誌に最後のサインをして閉じる。俺の言うう通り大人しくしていた甲斐クンは、期待したような目でこちらを見る。
「終わった?」
「まったく、貴方も副部長なんだからちゃんと書くところは書きなさいよ」
「えー、でもどうせ永四郎が部誌管理してるやっし」
「それでもですよ。ほら、帰るんでしょ」
「あい。あーもう待ちくたびれたやんに」
もう癖のように、促すときは手が動く。テニスを始めてからついた癖だ。
「えーしろー、佐世保バーガー食べに行こうさあ」
「まあ、たまにはいいですね」
「お、まじ?やっけ、誘ってみるもんやっさ」
嬉しそうに笑って、早く早くと急かされる。それを咎めながらも心中は穏やかだ。
「わん、やっぱ永四郎といるのしちゅんど」
一緒にいて、楽しいと思うのは俺もかもしれないね。
(120707)