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癖のある茶毛を掴んで、とびそうな意識を繋ぎ止めるように引っ張る。ぶち、と言う音がして、離すと何本かがわんの手についていた。ああ、抜けちまったやっさ。呟くと、痛みに引き戻されたのか、わんの下にいる裕次郎が呻いた。瞳は涙でうるうるなんて可愛いわけじゃないほどぐしゃぐしゃに濡れていた。
裕次郎はどれだけ泣いても渇かないのか、また涙が溢れている。自分の涙で髪の毛が顔に張り付いていた。はあはあ、と荒く呼吸するけれど息が整なわないのか、苦しそうに見つめてくる。すがり付く、子犬のような瞳。

「…っ、ぁ…り、ん……」
「やー、今とびそうだったろ」
「ん……っく、りん、……ごめ、」
「許すと思ってるばあ?」
「ひ、く…っ」

いやいや、と弱く首を振る。目は瞑ってしまってはいるが、きっと怯えの色をしている。熱に浮かされた瞳に怯えを宿しているなんて。これ以上なく鮮やかになっているだろう。

「おい、裕次郎。目ぇ開けろ」
「……あ、ぁ…や…」
「開けろって」
「ひ、あああああぁ!っん、ぐ…、っりん…」
「うん、じょーとー。裕次郎。」

ぐちぐちと擦りつけるように中に動かすと、余程痛いのか捕まれた腕に爪を立てられる。でも上着の上からだからきっと跡は残らない。これは、皺になるだろうけど気にしないことにした。
何度やっても裕次郎は慣れない。感じすぎるのか、はたまたこの行為に体が対応しないのか。男の体を無理矢理こじ開けている。対応しないのも仕方ない。わんはどっちでもいい。裕次郎が気持ちよかろうが痛かろうがわんには関係ない。けど、毎回血の匂いがするのはそろそろ勘弁だ。生理中の女子を犯してる気分だ。最悪だろ、それは。

「なあ、裕次郎」
「っあ、あ…、ひ…あぅっ…」

どうやったら血出ないかな。聞いてもわんの声が耳に入らないらしい。それでも、「裕次郎」と言うと中が締まる。裕次郎は名前を呼ばれるのが好きだ。感じているのがわかる。わんも、気持ちいいから呼ぶ。裕次郎。そうか、聞いていても台詞が言えないのか。赤くなった唇が何かを形作っても、出てくるのは甲高い喘ぎ声だ。それと、時折呻き声。
奥まで突き刺したところで一旦止まる。赤く染まった目が見つめてきた。なんで、と小さく掠れた声に、張り付いた前髪をかきあげる。撫でるようにすれば、気持ち良さそうに目を細めた。

「血、でるやっし」
「…う、ん……?」
「ちゃんと慣らしたら、出ないかな」
「……ぁ、わから、ん…ちゃんと、慣らして…っ、挿れたこと、……ない、やっし…」

またぐずぐずと泣き出した。いつも泣いてる。普段はあまり泣かないのに、わんとのセックスのときだけ。多分、痛いからじゃない。痛くて泣いてたのはもっと小さい頃のことだ。始まったときから既に泣いている。目に涙を浮かべてわんに腕を回す。なんで。

「やー、わんのこと好きだろ?」
「ん、わん、…すき」

好きと言うときだけ、裕次郎はふにゃんと笑う。ぐしゃぐしゃな顔で、嬉しそうに。俺のことが大好きな裕次郎は可愛い。

「じゃあ、なんでやーいつも泣いてる?痛くてか?」
「…ぬー、や…そんなこと聞くば…」

この関係になったのは、裕次郎が最初に言ったからだ。裕次郎がわんを好きだってことと、性欲処理でいいから抱いてくれと。だからわんは裕次郎の言ったとおりに抱いた。手荒く犯しても、泣きはしたが文句は言わなかった。後処理なんてしたこともない。それでも誘ってくるのは裕次郎のほうだった。
だんだんとわんも手慣れてきた。これでも最初の頃よりは痛くないはずだ。裕次郎が気持ちよければこっちも気持ちよかった。だから、最初よりずっと、快感は拾っているはずだ。
でも裕次郎は毎回ぼろぼろに泣く。好きな人に抱かれているはずなのに、誘ってくるのは裕次郎のほうなのに。

「…わんが、泣いてても…関係ないやっし」
「はあ?なんだそれ」

最中に話しかけてもどちらも会話にならないことだけはわかった。裕次郎が手荒く抱けというからそうしているのに、泣かれて関係ないとはどういうことだ。
律動に合わせて長い髪が揺れる。浅黒い肌はしっとりとしていて、触れると熱くて気持ちいい。よさそうな声はやはりどこか涙目だ。いつもそうだ。けど無性にそれがむかつく。涙の伝う頬を舌で掬い上げれば、きゅう、と締まる。

「やーなんか勘違いしてる、さあ」
「…ふ、ああああ、っあ…ん、あっ…」
「わんは好きでもない奴なんか抱かんよ」
「え、ま、…て、りん、…ひ、あぁああっあ!」

泣かないでほしい。本当は。その言葉も、裕次郎は聞き取れただろうか。



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