※日記ログ
幾多もある、一つ一つ数えることが面倒になるほど多くの墓石がこの墓地にはある。
位置関係的に0組の教室を通ってしか来られないこの場所には、他の生徒がいた試しがない。いたとしても覚えていないのかは定かではないが。
その丁度真ん中のほうに、墓石の名前を見るのでもなくただふらふらと歩いているナインを見つけた。
恐らく、特にここに来た理由もないのだろう。俺と同じように。
「何をしている、こんなところで」
「…アァ?…キングか」
睨み付けるように、更に威嚇するような返事はナインにとっていつも通りの挨拶で、知らない者が見れば機嫌が悪いだとか絡まれるなどと勘違いするほど態度が良いとは決して言えないものだったが生憎俺は知らない仲ではない。
こちらも適当に言葉を返し近くまで歩み寄る。
「なぁ、キング」
「なんだ」
「ここにあるさ、石に書かれてる名前。何人くれぇ俺と知り合いだったんだろうな」
「…そんなこと考えていたのか」
意外だな、とは口に出さなかった。そう言えばナインのことだから話が確実逸れてそのまま元の話題には戻るとは思えない。
「いや、だってよぉ、戦いにいけばいくほど、知ってる人間が少なくなってんのは、今でもやっぱ違和感あんだよ」
「仕方ないさ、それがクリスタルの意思だからな」
「まあ、そうだけどよぉ…あー!もうワケわかんなくなってきやがった」
時折ナインは俺だけにこのような話をするようになった。今まで当たり前だったことに今更疑問もなにもないが、何故だがナインの中で何かが違和感として残っているらしい。
それが何なのか、ナインが気にするようになったのとあの日が同じなのが関係あるのだろうか。
そうであったとしても、俺はきっとナインには言わないに違いない。
お前の中で、顔も思い出せないあいつの存在が大きかったのか、だなんてわざわざ確かめて自分の首を絞めるようなことはさすがに俺でもしたくないのだ。
「頭使って腹でも空かせたんじゃないのか」
「ん、お?…どういう意味だよ。でも腹は減ったぜコラ」
「飯食いにいくか」
「おう」
これでいい。ずっと気付かないで、お前はそのまま俺の隣でいればいい、など少しでも頭の片隅で思ってしまうほどには俺もどうかしているらしい。
(120316)