※ついったRTネタ入ってます!
※友人の那緒ちゃんに捧げます
※本人(那緒)様のみ持ち帰り可





カシャカシャとキーボードを打つ音と紙の捲れる音だけが空間に響く。
読んでいたポケモン雑誌から視線を外し、未だ画面と睨みあっている人物、ゴールドの背中だけが目に移り俺は心の中で溜息を吐いた。


『ボックスの整理をしてもいいですか?』


来訪してすぐ、恋人であるゴールドから言われて了承したのが今から約一時間前。
それから自分は彼が用事を済ませるまで彼の本棚に入っていた雑誌や本で暇を潰していたのだが、それでもまだ彼の用事は終わらなかった。
何回も読み返した雑誌を腰掛けていたベッドの端にそっと置き、あぐらをかいた太腿の上に頬杖をついて彼の小さな背中を眺める。

恋人として彼と新しい関係を築き始めたのは記憶に新しい。
ぎこちなく、それでいて真っ直ぐな二人の恋は吊り橋を渡るように危険だったのだけれど、それでも今はこうして互いの家を行き来出来る関係にまで発展したのだ。充分進歩したと、自分でも思う。
だからこそ、今同じ空間にいるのに彼が話しかけてくれないこの状況が、俺にとってはすごく苦痛だった。
今までは家に来れば必ず彼が笑顔で迎え入れてくれ、互いの他愛の無い話で数時間過ごしてきたのだ。今日みたいに彼から一言も発せられることもなく、それでいて視線さえも合わせてもらえない。暇、というより無視されているみたいで寂しいのだ。

彼がポケモンの図鑑を埋める為に日夜カントー、ジョウトと飛び回り果てにはトレーナーとしても名を馳せていることは知っている。
ポケモンと接する機会が今の自分よりも多い彼は、もちろん手持ちや捕まえたポケモン、そしてボックスの管理にも気を配らなければいけないことは分っている。
けれど、別にそれは後でもいいのではないか? と思う自分もいるわけで。



―『俺とポケモン、どっちが大事なんだよ?』



なんて、安いメロドラマみたいなセリフを頭に浮かべてしまった自分に苦笑する。
そんな風に考えるほど、俺は随分と彼に惚れ込んでしまったらしい。そんな自分がなんだか可笑しく思えた。

一人で百面相をしていても、彼は一回もこちらを振り向かない。
けれど自身のもう暇を潰していられるほどの余裕も無いのだ。

彼に気付かれぬ様、ゆっくりと彼の背後からそっと歩み寄り、そして、


「……っ!? ……ぐ、グリーンさん?」

「……おせぇ。俺のことも忘れないで構え」


マウスを握る彼の右手を取り、その手に口付け不満を述べる。
俺の急な行動にやはり驚いたゴールドはびくりと身体を揺らしながらも、それでも俺の言っていることが理解できたのだろう。やがて眉を下げ、申し訳なさそうに言った。


「すみません。……もしかして随分待ちました?」

「当たり前だ。ったく、時計見てみろって」

「え…?あっ!!」

「まったくお前は……」


今になってようやく、彼が自身をどれだけ待たせていたのか理解したのだろう。壁に掛けてある時計の針を見て、彼は驚いたように声を上げた。
俺の予想通りの反応をした彼を可愛いと思う反面、やはり忘れらていたことに悲しくなった。


「声、掛けてくれればよかったのに……」

「あんなに真剣な顔して画面と睨めっこされてたら掛けるに掛けられねぇって……けど、」


そこで一旦言葉を切って、俺は未だ掴んだままだった彼の右手、今度は掌に再度口付けを落としながら目を細めにこりと笑って言った。


「もうこれ以上は待てない。……俺を待たせた分、しっかり身体で払ってもらうからな」

「分りました。……あの、……えと、今日は親……いないんで…」

「っ!? お前、」

「…オレだって、ちゃんと貴方のこと考えてます。だから、焦らなくても、寂しがらなくてもいいですよ?」

「はっ、……敵わねーな」


彼にしっかりと自身の心を見透かされていたことに驚きと情けなさを感じながら、俺は安堵するように笑みを一つ零し髪をくしゃりと掴んだ。
そして、パソコンの電源を落としたゴールドの身体を抱き上げてさきほどまで座っていたベッドへ横たえる。
彼は抵抗をすることなく、自身の首に腕を回してキスをねだるように目を閉じた。



(君の心も、俺の心も)


溶け合って一つになれば、恋が愛になるのだろうか