※ついったRTネタ





「よぉ、ゴールド」

「あっ!グリーンさん、こんにちは。今日は何を買いに来てくれたんですか?」

「あー…、じゃあこのリンゴ一つ」

「いつもありがとうございますっ!」


はい、そう言って目の前の少年は傷一つないリンゴを俺に一つ手渡した。
その場で一口齧り付けば、爽やかな香りと甘酸っぱい味が口腔を潤した。


「…やっぱりお前の売る果物が一番美味いな」

「そう言ってもらえると嬉しいです。きっと母さんも喜びます」


照れくさそうにはにかみながら少年、ゴールドは言った。
ゴールドがこの市場で売っている野菜は、どれも彼の母が育てたものらしい。きっと、明るくて優しい母なのだろう。彼を見続けていれば大体想像はつく。
それから二言三言交わして、俺は彼の店から離れていく。


「いらっしゃい、いらっしゃい!!」

「今日採れたばかりの新鮮な野菜はいかがですかっ!」


さきほど買ったリンゴを齧りながら歩いている間も、隙間なく並ぶ出店から大きな掛け声が反響し街行く人たちの関心を惹きつけている。
魔術や戦争とは縁の無いこの街は、活気に溢れいつも賑やかだ。
市場には鮮魚や野菜、果物といった世界から流通してくる品物が日々輝きを放ちながら売られている。

そんな中俺があの少年の店へあしげく通うのには訳がある。
それは、俺が彼を好きだからだ。

初めはただ目に留まったから足を向けただけなのだ。


『…ったく、勉強勉強ってしつけぇーんだよ!確かに魔術は使ってても楽しいけどさ…』

『いらっしゃいませ。お兄さん、なんだか元気ないですね。果物でもどうですか?サービスしますよ?』

『あ?……』


祖父が学者として名を馳せているからなのか、俺は小さい頃から魔術だ学問だと知識をたくさん叩き込まれてきた。
小さい頃はそれが当たり前だと思っていたから何の疑問も湧かなかったが、大きくなるにつれて自分は何故こんなことを勉強しているのか、将来本当になりたいものはなんなのかを考えるようになり、ここ最近はよく家を飛び出し賑やかなこの市場へと足を運んでいた。
その時に出会ったのが、さきほどの少年、ゴールドである。
初めて彼を見た時は素直に驚いた。まさか自分よりも年下の少年が店を構え商いをしているとは今まで生きてきた中で初めて見た光景だったから。
それに、聞けば彼は隣の大都市であるジョウトからわざわざこのカント―まで来て商売をしているというのだ。これにも俺は心底驚いた。


『お前、怖くないのか?ここに来る途中に襲われたりとかは…』

『ああ、怖くないですよ?だって…』


以前、そう尋ねたことがある。あんな小さな身体でカント―まで商品を運ぶのだ。途中で山賊に襲われたりはしないのだろうかと疑問に思ったのだ。
だが、そう問い掛けても彼から帰ってきた言葉は意外なものだった。
思わず何故、と再度問いかけそうになった時、彼は不意に右手を胸に当て不敵に微笑んだ。
するとポウッ…、と彼の胸の正面に魔方陣が現れたかと思うと、次の瞬間には彼の手元には一丁のマスケット銃が収まっていた。


『っ?! ……お、前』

『母さんに教えてもらったんです。“自分の身くらい自分で守りなさい”って』

『…お前、すげぇな……』


今しがた取り出した銃を仕舞いながらそう答える彼に、俺は素直に感想を述べた。まだ自分と少ししか年の違わぬ少年があんなに見事に魔法を使いこなしたのだ、驚かないハズなんてなかった。


『ゴールド』


不意に少年が言う。
それが彼の名前だと理解するのに少し時間が掛かったが、すぐに自分も名前を名乗り、握手を交わす。


『オレの名前はゴールドです。アナタは…?』

『俺はグリーン。…なぁ、また俺と会ってくれないか?』

『いいですよ。オレは毎日この場所で果物を売ってるんで、グリーンさんが暇な時はいつでも寄って行って下さい!』


年が近いことも幸いしたのだろう。彼は警戒することなく了承してくれた。
こうして、俺はゴールドと交流を持つようになった。

それからというもの、俺は前よりも家を飛び出しゴールドに会いに行った。
ゴールドが売る果物はひどく評判が良いらしい。行けばいつもその場に並べてある商品は売り切ればかりだった。まぁ、実際自分も食べてみたから分かるのだが。
ゴールドは毎日飽きず来る俺に呆れることもなく、常に新しい話題を提供してくれる。
彼の全てが新しく魅力的で、俺が彼に夢中にならないハズがなかった。
自分よりも小さなその身体を抱きしめて、キスをして、服を脱がせて全てを暴きたい。
指を絡めて、舌を絡めて、身体を交わらせて一つになりたい。
そんな生々しい感情が、果たしてただの憧れなどと呼べるはずもなく。

“恋”なんて可愛らしい感情じゃない、これは、“情欲”だ。

そして日に日に募る思いはある日を境に爆発した。


「ゴールド、また来たぜ!今日はお前に話が…、あれ?」


もう彼に対する想いを抑えることなどできなかった。
自身の想いを彼に打ち明けようと、彼の店へ顔を出したが、そこには彼はおらず、それどころか商品さえも並んでいなかった。
今日は市場が一番賑わう日で、彼が店を開けなかったことは無い。

一体、どうしたのだろうか?

するとカント―からジョウトに続く街道の方へ、警備隊と魔導士が慌ただしく向かうのが見えた。
市場で買い物をする客達を押し退け大声を上げながら通過していく時、耳に入ったのは、


「ジョウトの商人が数人、山賊に襲われているみたいなのよ!」

「山賊の方も、最近になって魔導士だかを仲間に引き入れたとかって風の噂で聞いたからな…」


なんだって?! じゃあ、今ゴールドがこの場に居ないのも…。


「……っ!!」


いてもたってもいられなくなって、俺は弾かれるように警備隊に続くように街道へ向かって走り出した。


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