※ついったRTネタ
※一応恋人同士だよ!





「三十八度…。完全に風邪のようだな」

「…ご、ごめっ、……げほっごほっ!」

「喋るな。大人しくしていろ」


さらりと前髪を梳いたその手の冷たさが気持ち良くて、オレは彼の言う通りにだるい身体をベッドへ沈ませた。
彼はそんなオレを心配そうに一瞥してから、ベッドの横に置かれた水の張った桶の中のタオルを絞り、オレの額へ乗せた。

温暖な地にあるここワカバタウンでは雪など滅多に降ることは無かったのだが、ここ最近は毎日と言っていいほど雪が降り続き、町一面雪化粧を施すほどに降り積もったので、オレはクリスやシルバーを引き連れて雪遊びに興じていたのだが、それが原因なのだろう。
オレは風邪を引いてしまい、今自室のベッドで恋人のシルバーに看病されながら横になっていた。
母さんは何か栄養になるものをと、さきほどシルバーと一緒に見舞いに来てくれていたクリスと共に出かけて行ってしまっていたので、今この家にはオレ達二人しかいなかった。


「まったく、馬鹿は風邪を引かないとどこかの書物で読んだんだがな…」

「じゃあオレは馬鹿じゃないってこ、」

「今回の風邪は薄着で長時間雪遊びをしたのが原因だ。頭の良い奴は厚着をする。…つまり、お前は馬鹿だ」

「…なんだとっ!? この……げっほ、ごほごほっ!!」

「だから喋るなと言っただろう」


喋らせているのはお前だろうと恨めしそうにシルバーを見やれば、彼は心配そうにこちらを見つめていたので、オレはそれ以上何も言えなかった。


「しかし、なかなか熱が引かないな…。咳もひどいし」

「薬は一応飲んでるんだけどな…」

「薬といっても市販薬だろう?…病院には行ってないのか?」

「う〜ん。母さんが今日にでも連れて行くって言ってたけど」

「今日は午後からまた雪が降るらしいが、お前の母親を待っていたら多分午前の内には医者にはかかれないな…」


顎に手を当てて考え込むシルバーは、やがて何かを思い立ったようにふっと顔を上げてすくっと立ち上がった。


「おい、ゴールド。ポケギアを貸せ」

「ん?あぁ、それなら後ろの机の上だけど…」

「分かった。少し借りるぞ」

「いい、けど…」


何をするんだと問い掛ける前にシルバーは素早くポケギアを操作し、誰かへ連絡を掛けたかと思うと、そのまま一階へ向かって降りて行ってしまった。
そして下の階で何やらごそごそと物を漁る音が聞こえた数分後にはシルバーは再び二階へ戻ってきたのだが、何故かこれから外出でもするのかコートを羽織っていた。


「ありがとう。ゴールド」

「いや、別に…ってか、なにしてたんだ…?」

「ああ、そのことなんだが、これからお前を病院に連れて行こうと思ってな」

「は…?」

「お前の母親にも許可は取った。雪が降る前に行こう」

「え、ちょっと待てって…」


ほら、と今度はオレの替えの服とコートを投げて寄越し、早く着替えろとでも言いたそうにオレを急かす。
だが、オレは何が何だか分らない状態のままシルバーの指示に従う訳にはいかないので、服は着替えつつ理由を聞くことにする。


「病院に連れてくって…」

「テレビの予報では雪が降る確率は八十%らしい。かなり高いから雪が降る前にお前を病院に連れて行くと、お前の母親に連絡したらよろしくと言われたから、保険証と診察券を持って今から行くぞ」

「お前が、連れてってくれるのか…?」

「俺しかいないのに何を言ってるんだ、お前は。ほら、用意が済んだのならさっさと行くぞ」

「ああ、ありがとう…」

「だが、お前は立つのもやっとだからな。だから、ん…」

「は…?」


そこまで言うとシルバーはオレにくるりと背を向けて屈み込んだ。


「なんだよ…これ」

「おぶってやると言ってるんだ。早くしろ」

「は、はあっ!? や、やだね。なんでオレがお前……う、げほ、ごっほ」

「さっきよりも咳がひどくなってるな。駄々を捏ねてないでさっさと病院に行くぞ」

「で、も…ごほ、げほ」


確かに、同じ年のしかも男におんぶされるのはいくらオレだって恥ずかしい。
けれど、シルバーは純粋に心配しての行動だろうし、早くしないといつ雪が降ってくるかも分らない。
それに、母さんにもクリスにもこれ以上心配はかけたくない。


「ゴールド」

「…よろしく」


とうとうこちらが根負けして、オレはコートをしっかりと着込んでシルバーの背に向かって抱き着いた。
それを確認したシルバーが両足を抱え込み、ひょいとオレを担ぎあげたことに若干驚きながらも、その暖かい背中が心地よくて、オレは大人しくシルバーの温もりを感じることにした。


「…ありがとな、シルバー」

「恋人が病気なんだ。これくらいはするさ、お姫様?」

「っ?! …ガラにもねぇーことすんなって…」


二人でふざけ合いながら、かかりつけの病院まで歩き出す。
シルバーもそれ以上はなにも言わず、ただ黙々と足を進めるから、オレはそんなシルバーの優しさに甘えるように、背中に縋りついてくすりと笑った。



(背中から広がるキミの優しさ)



「たまには風邪も引いてみるもんだな」


怒られるのを承知で、そう零した。