※ついったRTネタ入ってます





「…すみません」

「別に謝る必要なんか…」

「ごめん、なさい…」

「………」


世の中の誰もが浮かれるハズのバレンタインと呼ばれる今日、何故か俺達二人の間には重い空気が流れていた。
その原因は俺達の目の前の机の上に置かれた形がボロボロに崩れた“チョコブラウニー”になるハズだった真っ黒い物体。
見ての通り、ゴールドは俺に渡す予定だったコレを焦がしてしまい、一人で悩んでいるところに運悪く俺が訪ねて来てしまったのだ。
それからというもの、俺とゴールドはこの物体を真ん中に互いに向かい合った状態で数分を過ごしていた。

今にも本格的に泣き出しそうにべそをかくゴールドをどれだけ慰めてもコイツは聞く耳を持たず、ただひたすら謝るばかり。
さすがにこれ以上同じことを続けていても埒が明かないと判断し、この状況を打破すべく俺は目の前の物体へ手を伸ばした。


「少しもらうぞ」

「えっ?……だ、だめですっ!!」

「いただきます」


ブラウニーに伸ばした手を制止しようとしたゴールドの手を更に制止し、俺は開いたもう片方の手でそれを口に入れた。
焦げているところが多く、全体的に苦みが効いていたが食べれないことは無いな、などと俺はそれを咀嚼しながらぼんやりと思った。
すると、さきほど握ったゴールドの手が強く握りしめるように動いたので、俺はゴールドへ視線を動かすと彼はごくりと唾を飲み込みこちらの反応を伺っていたので、俺はブラウニーを嚥下し、ゆっくりと口を開く。


「あの、…どうでしたか?」

「美味かったよ。……言っとくけど、お世辞じゃねぇーからな」

「…っ、あ、ありがとうございます」


茶化すことも苦言を呈することもせず、真剣な表情でキッパリと感想を述べる。
そんな俺にゴールドも安心したのか、強張った表情をやっと和らげ、ふわりと笑った。


「…一応クリスや母さんからもらったレシピ通りに作ったんですけどね。……やっぱり慣れないことはしない方がいいですね」

「今年は気持ちだけ貰っておく。その代わり、来年は美味いの食わしてくれよ?」

「はい。精進しますっ!」

「約束だぜ?……っと、じゃあ今年は俺からってことで。ホラ、やるよ」

「えっ……?」


そう言ってゴールドの掌へラッピングされた箱を乗せれば、ゴールドは目を瞬かせて箱を凝視していた。


「まさか俺が用意してないとでも思ったか?…まあ、開けてみろって」

「あっ、はい…」


にやりといたずらに微笑めば、彼は否定するように首を横に振り返す。
そんな彼の喜ぶ顔が見たくて、俺は早く箱を開けろとゴールドを急かした。
ゴールドはそんな俺の言葉を合図に掌に乗せられた箱の包装を解くと、声を上げて驚いた。


「すごい…。これ、本当に貰ってもいいんですか?」

「当たり前だ。その為に買ったんだからな」

「でも、こんな高級そうなチョコ…、貰えません」

「お前はそんなこと気にしなくていいんだよ。俺がやるって言ってるんだから素直に貰っておけって」

「で、でも…」


確かに彼にあげたチョコは有名な高級洋菓子店のチョコレートだが、そんなに気を使わせる為に買ったわけではなく、ただ純粋にゴールドのことを考えて彼に合う物を買ったので遠慮なんてしてほしくなかった。
けれど、やはりそういったところを気にしてしまうのは彼の性格が関係しているのだろう。
未だに渋い表情のゴールドを見て、俺はふと思い立ち、開いた箱の中に入っていたチョコを一つ口に咥え、ゴールドへ向かって顔を突き出した。


「なら、俺がお前に無理矢理あげる分にはいいだろ?」

「えっ?…いや、あの、言ってる意味が…」

「あーあー、分かんなくていいから。…ホラ、口開けろって」

「ちょ、…グリーンさ、」

「逃げるなって。…口開けろ」

「あのっ!…んぅっ?! ん…」


ニヤリと笑ってそのままずいっと身体を前へ乗り出してゴールドへ迫れば、これから何が起こるのか大体予想が付いたのだろう。やはり逃げようとする彼を先に両手に指を絡ませて逃げられないようにさせてから、俺はゆっくりとゴールドの唇へ自分の唇を合わせた。

突然のキスに始めは驚いていたゴールドもとうとう観念したのか、やがて絡ませた指に応えるように力を込めて口付けを甘受する。
互いの舌で溶けるチョコの芳香がふわりと部屋へ広がるのを感じながら、俺達二人はしばらくキスを繰り返し、熱を分け合った。



(St. Valentine's day)



口の中に残っていたブラウニーの苦さが、チョコの甘さと交わって溶けていった。