※ついったRTネタも入ってます





アサギシティから少し離れた海岸で、俺はゴールドと他愛のない会話をしながら散歩をしていた。
俺はジョウトには滅多に来ないから、この辺りで日々当たり前のように見られる野生のポケモン全てが目新しいモノであった。


「ん…?」

「どうしたんですか?レッドさん」


自分の目の前にごろりとヒビが入っている岩がいくつか目に入り、俺は足を止めた。
それにつられて俺の後ろを歩いていたゴールドも足を止め、ひょいと後ろから前を覗き込んできた。


「いや、この岩さ…」

「ああ、これくらいの岩なら《いわくだき》で砕けそうですね……。時々野生ポケモンがいることがありますから…。なんなら砕いてみましょうか?」


そう言ってゴールドは腰に下げていたモンスターボールを一つ取り、中からイワークをくりだした。


「イワーク、《いわくだき》!」


主人の命に従い、大きな唸り声を上げながら、イワークは目の前の岩を砕いてみせた。


「どうですかレッドさん。何かいそうですか?」
「ん?ああ、今見てみるよ」


イワークをボールに収めながら問い掛けるゴールドに応える為、俺は今しがたイワークによって砕かれた岩の下を覗き込んだ。すると、


バババババッ


「うわっぷっ?! …げほっ、…こほっ」


野生のポケモンであろう生物に砂をかけられ、俺は屈もうとしていた身体がバランスを崩しその場へ尻餅を付くように倒れた。


「ぷっ…あははっ!レッドさん何やってるんですか…はは、あはははっ!!」

「う…笑うなよっ!……うぇ、少し口の中に入ったかも…」


そうして口の中の細かな砂利を吐き落としながら、今にもその場で腹を抱えて笑い転げそうなほど爆笑するゴールドを睨み付ける。
だが、ゴールドはそんな視線などもろともせず、目の端に涙を溜めながら未だ笑い続けていた。


「ったく……ん?」


口の中の砂を落としきり今度は服に付いた砂を吐き落とそうとすると、さきほど自身に砂をかけたであろうポケモンのクラブが、こちらへ寄ってきていた。
どうしたのだろうとクラブへ視線を向けると、その視線に気付いたのかクラ?ブは自分に向かってハサミに挟んだままの何かを差し出してきた。


「ん?…あ、コレ…」

そのハサミに挟まれていたのは、綺麗にラッピングされてある箱だった。
それをクラブは早く受け取れとでも言いたそうに、再度こちらへ向かってずいと差し出してきたので、俺は何が何だか分からないままその箱を受け取った。それと同時に、


「ありがとう、クラブ。戻って」


さきほどまで笑っていた声とは一変して、凛としたゴールドの声が響いたのと同時に、クラブは俺の前から消え、ゴールドが持つモンスターボールの中へ入っていった。


「…ぷっ、…レッドさん、どうしたんですか?そんな顔して…」


今度はくすりと控えめに、未だ訳が分からず受け取った箱を片手にぽかんと口を開けたままの俺に、ゴールドは笑いかけた。


「いや、…だって、展開が急すぎて何が何だか…。ってか、さっきのクラブはお前のだったのか?」

「そうです。予めここで待機するようにお願いしておいたんです」

「で、この箱は?」

「バレンタインのチョコレートです。今日はバレンタインだから、オレからレッドさんへ贈ろうと思って」


そう言ったゴールドは頬を赤く染めながら俺の傍まで歩み寄り、そう告げた。


「なんでそんなまわりくどいこと…」

「ムードを大切にしないあなたに、オレがムードってもののお手本を見せてあげたかったんです」


思わず口をついて出た本音の言葉に、ゴールドは呆れ顔でそう答える。
確かに、彼の言う通り普通に渡すよりもこちらの方が数倍ムードがある。気がする。


「だからってなにも砂かけなくてもいいじゃないか」

「オレにこんなまわりくどいことさせたんですよ?これくらいいいじゃないですか」


それでも腑に落ちなくてぽそりと呟けば、ゴールドはイタズラな笑みを浮かべながら未だ座り込んだままの俺と目線を合わせるように屈み込み、そして、


「ハッピーバレンタイン。レッドさん」


そうしてそっぽを向いたままの俺の頬へ、キスを落とした。



(St. Valentine's day)



キスを落とされた場所が、じわりと熱を持った。


(Side.グリゴ)