「あの…博士…」

「あら、何の用かしら?N君」

「実は…」




















「ヤッホー、ベル。久しぶりっ!元気にしてた?」

「よっ、ベル!久しぶりっ!」

「二人共久しぶりっ!シュウやヴァイスこそ元気にしてた? …もうっ、二人共全然連絡寄越さないんだからっ!!」

「うっ…ごめんね?」

「ご、ごめん…」

「もうっ!今日はもういいけど、今度からはこまめに連絡ちょうだいね?」


久しぶりに帰ってきたカノコタウンにあるアララギ博士の研究所の前で、私はシュウと一緒に幼馴染のベルと久しぶりに再会した。
互いに軽く挨拶を交わしながらじゃれ合っていると、ベルの後ろから同じく自分達の幼馴染であるチェレンが姿を現した。


「まったく、相変わらず元気だね君達は…」

「チェレン!」

「よぉ、チェレン!お前も元気にしてたか?」

「ああ、おかげさまでなんとかね…。シュウやヴァイスも元気そうで何よりだよ」


久しぶりに四人が集まり、その場で話に花を咲かせていた所に、アララギ博士の研究所の扉が開き、博士が姿を現した。


「久しぶりね、四人共。さ、中に入ってちょうだいっ!」


博士はそれぞれの顔を見渡し全員いることを確認すると、用件だけ伝えさっさと中へ戻っていってしまったので、私達は不思議に思いながらも素直に彼女の後に付いていくことにした。


「ねぇ、今日はなんで呼び出されたのかなぁ〜?」

「さぁ、ぼくには分からないな…」

「俺も分かんないや…。だって博士なんにも言わなかったし…」

「一体何なんだろうね…?」


ベルの問い掛ける言葉に、私達は応えることが出来なかった。
何故なら、私達も呼び出されはしたものの、その用件というものを一切知らされていなかったからだ。


『二月十四日。私の研究所の前に全員集合することっ!絶対よっ!』


数日前ライブキャスターでそう言った博士の言葉がよみがえる。
そして、さきほどとおなじように用件だけ伝えてさっさと回線を切ってしまった彼女にもう一度聞き返すことも出来たのだが、その時になれば分かるだろうと、あえて聞き返すことをきなかった自分がいたのも思い出した。


「失礼します。………アレ?」

「どうしたの、ベル…あ、」


そんなことを考えながら研究所の扉をくぐり彼女の後を追いかけて研究所の奥まで行くと、途中で先を歩いていたベルが急に立ち止まり足を止めた。
私達三人もベルにならい足を止め、未だピタリと止まったままのベルに声を掛けながら彼女の視線の先を追ったその先には、


「N!」

「やあ、皆久しぶりだね。今日はわざわざ集まってもらってありがとう」


にこりと微笑みながらアララギ博士の横に立つNがいた。

Nはつい最近まで行方不明となっており私達が躍起になって捜していたのだが、去年のクリスマスにようやく私達の前に再び姿を現したのだ。
それ以降、彼はハンサムさんの事情聴取を行った後にアララギ博士の研究を手伝う助手として、ここカノコタウンでのびのびと生活を送っていた。
そんな彼に会うのも、私は久しぶりだった。


「あれ?もしかして、今日呼び出したのって…」

「ボクが博士に頼んで呼んでもらったんだ。…実は皆に渡したい物があってね。……はい、コレ」


そう言ってNが私達四人の掌へ乗せたのはキレイにラッピングされた袋だった。
それぞれ袋とリボンの色が違っており、どれもセンスの良い仕上がりになっていた。


「今までの感謝のしるしだよ。開けてみてくれないか?」

「あ…うん」


Nのその言葉を合図に、けれど何がなんだか分からぬまま、私達は包装されたリボンを解いた。


「あっ!」

「すげぇっ!」

「なにこれっ?!」

「すごいな…」


包装が解かれた袋の中から出てきたものに、私達四人はそれぞれに驚いた表情で声を上げる。それもそのはず、その中に入っていたのはイッシュの伝説のポケモンと言われたレシラムやゼクロム、そして私達四人がアララギ博士から初めて貰ったポケモンを模したクッキーが入っていたからだ。


「今日のバレンタインという日は日頃世話になっている者に感謝のしるしとして贈り物をする日だと聞いてね。それで、博士に無理を承知でお願いをしたんだ」

「『あなた達四人に贈り物をしたい』ってN君が言うものだから、私も久しぶりにお菓子作りなんかに精を出しちゃったわ!…N君も手際がすごく良くて、教え甲斐もあったってものよ!」

「ありがとうございます、博士。…ところで、味はどうかな?」


未だそのクッキーを見たままの私達に声を掛けたNに応えるように、私達はそれぞれに礼を述べた。


「ありがとう、N」

「サンキューな、N!」

「ありがとうっ!でも、なんだか食べるの勿体ないよ…」

「…ありがとう。嬉しいよ」

「こんなのじゃ足りないほど、君達にはたくさんの宝物を貰っているからね…。喜んでもらえて嬉しいよ」


そう言ってふわりと微笑むNに、もう昔の様な冷めた印象はどこにも無かった。
その優しさも暖かさも私達が与えたものなのだと思うと、妙に恥ずかしかったけれど、嬉しかった。

ベルやシュウと話しながら笑うNを横目に、私はクッキーへと歯を立てた。



(St. Valentine's day )



さくりと音を立てたクッキーからは、優しく甘い味がした。