※ちょっと卑猥 「んっ!んっ…はぁ、…は、ぁ」 「ん…」 くちゅりと厭らしい音が響く部屋で、オレはシゲルさんと唇を重ねていた。 角度を変えて何度も併せられる唇からは洋酒の味と匂いがして、オレは酸欠とは別の意味で頭がくらくらとした。 押し倒された机の上、オレの身体のすぐ横にはチョコレートボンボン。所謂ブランデーチョコと呼ばれるバレンタイン定番のチョコレートが入った洒落た箱と、その中のいくつかが食されたチョコが数個入っていたものが置かれていた。 『あ…』 オーキド博士に頼まれてタマムシシティのデパートまで足を運んだ時、大きく印刷された“バレンタイン特設コーナー”という文字が目に入り、女の子達が群がっている所へオレは勇気を振り絞って足を踏み入れた。 男が入ってきても恋する少女達は目もくれず、それぞれ意中の相手を落とす為に躍起になって商品に手を伸ばしたりしていた。 既製品から手作りキットまで、種類が豊富な商品に対して、オレは素直に感嘆した。 『へぇ〜。結構種類があるんだな…』 などと感心する一方で、女の子達は色々と面倒なのだなとオレは内心苦笑を浮かべた。 『(でも、オレもシゲルさんにあげた方がいいのかな…?)』 オレに今日頼み事をしたオーキド博士の孫のシゲルさんとオレは、世間でいうところの“恋人”に分類される関係である。そして、バレンタインデーと呼ばれる今日はそんな恋人や日頃感謝している人に贈り物をする日でもある。 だけれど、シゲルさんははっきり言ってモテる。らしい。 オーキド博士に聞いた話では、今の研究者としての道を進む前はポケモントレーナーとして旅をしており、行く先々では常に傍に女の子を連れていたというのだ。 今日みたいな日は、その女の子達も黙ってはいないだろう。 それに自分は男だし、彼に釣り合うような容姿でも無い。チョコレートもそんな彼女達から数えきれないくらい貰うだろうから。とチョコレートを贈ることは躊躇われた。だが、 『(そうだ!何も“好き”とかじゃなくて感謝、“感謝の気持ち”っていうことにして渡せばオレも恥ずかしくないし、シゲルさんにも当たり障りのない渡し方が出来るっ!…よし、それでいこう!!)』 そう自分を勇気付けて、シゲルさんのイメージに合うような大人びた包装と味のするブランデーチョコの箱を手にし、オレはレジへ向かった。 「シゲルさん。これ」 「ん?…これは」 「今日はバレンタインじゃないですか。それは日頃の感謝のしるしです。…シゲルさんはもうたくさん貰ってると思いますけど、よかったら貰って下さい」 用事を終わらせ買ってきたものをオーキド博士に渡してから、オレは研究を進めているシゲルさんの部屋へと足を運んだ。 控えめなノックと共に扉を開ければ、ちょうど休憩をしていたところなのか、シゲルさんがふわりと笑ってオレを出迎えてくれた。 おかえり、ただいま。と挨拶を交わし、オレは後ろ手に持っていたさきほど買った箱を差し出した。 シゲルさんは差し出した箱を怪訝そうに一瞥したが、やがてそれが何なのか理解するとありがとう。と言って箱を受け取った。 「へぇ、ブランデーチョコか。これは君が選んだのかい?」 「ええ。あ、でも別に今食べなくてもいいですよ?仕事中だし、お酒入ってるのは…」 「いいよ、少しぐらいは。それに、…」 「?…っ、ん?!」 ぐい、と腕を引かれ研究の資料が置かれている机とは別の机に押し倒されたかと思えば、次の瞬間には口が塞がれていた。 それがシゲルさんの唇だと理解するのと同時に、今度は開いたままの口腔にぶわりと液体が広がった。 「んっ!! …んぅ、…んぁ」 「ん、…ん、ふっ…」 その液体がさきほど買ったブランデーチョコのものだと分かると、オレの顔は慣れないアルコールにすぐ真っ赤に染まった。 洋酒独特のキツイ匂いとアルコールの味、そして何度も角度を変えて繰り返される口付けで意識が朦朧とするオレなんてお構いなしに、いつの間に包装を解いてチョコを口に入れたのか分からない箱をオレの身体の横に置きながら、シゲルさんはなおも唇を合わせ続ける。 ブランデーのせいであろう互いの熱い舌と口腔、そして唾液が混ざり合って、部屋の空気は一気に淫靡なものとなる。 うららかな午後の昼下がり、そして鍵の掛かっていないこの部屋。これ以上はさすがにマズイと判断し、オレは未だ覆い被さり続けるシゲルさんの背中を激しく叩き、制止させる。 「っぁ!…あ、はぁ…な、なにするんですかっ!?」 「ん…、結構アルコールがキツイんだね…。でも、美味しかったよ。ありがとう」 「どういたしまして。…って、もう!時間を考えて下さいよっ!それに、オレはそういった意味であげたんじゃないんですよ!!」 「ん?そういう意味って、“どういう意味”だい?」 「あっ……!!」 唇を話してもケロッとしているシゲルさんについ説教じみたことを言ってしまうのと同時に、チョコレートを買った本当の意味まで話してしまったのをシゲルさんは決して聞き逃さず、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて先を促させる。 「ほら、正直に言いなよ」 「…ほ、本当は“好き”です。って言う意味を込めて買いましたっ!でも、シゲルさんはモテるみたいだし、オレなんかよりも女の子に貰った方がいいんじゃないかとか思ってたんで誤魔化しました…。もうっ、これで満足ですかっ?!!」 「まったく、そんなこと気にしなくてもいいのに。まぁ、それはこの際いいか…。ちゃんと本音を言ったしね。うん。合格」 「ううぅ…」 くすくすと笑いながら起き上った上半身を抱き込まれる。 やっぱり彼には隠し事なんて出来ないな。と心の中で思いながら、まだ赤いままの顔を隠す様に彼の胸へ顔を埋めた。 (St. Valentine's day) 顔を埋めた彼の身体から、ほのかにブランデーの香りがした。 →(Side.シルゴ) |