雨の日に必ず見る夢がある。
自分の大切なものが消える夢。

全てが消えてゆく中で、俺はただ立ち竦むばかり。
やっとの思いで手を差し伸べても、するりとすり抜けていく。

必死に叫んでも、その声に応えるものもなく。


「…ッ!」

「わっ!」

「きゃっ!」


ガバリ、と勢いよく起き上がるのと同時に、左右から短い悲鳴が上がる。
まだ完全に覚醒していない目で見回すと、ゴールドとクリスがいた。

二人は俺の顔を心配そうに覗き込んでいる。


「(……そういえば今日はゴールドの家でポケモンの話をしていて、そのまま昼寝をしていたんだっけ…)」


ゴールドとクリスは俺に初めて出来たライバルで、そして、親友だ。
出会いは最悪だったはずなのに、二人は俺を受け入れてくれた。

ポケモンの愛し方、ましてや人の愛し方も分からなかった自分に、信頼すること、愛することを教えてくれた。
だからこの二人は、俺の大切な宝物なんだ。


「シルバー…大丈夫か?」

「顔色が悪いわ。もう少し休んだら…?」
何の反応も示さない俺に不安を感じたのか、二人は心配そうに声をかける。


正夢にならないでくれ

俺から、大切なものを奪わないでくれ!

そう願う様に、そして二人を繋ぎ止めるように、俺は二人を両手でキツク抱き締める。


「ど、どうしたんだよ!」

「い、いきなり何?」


俺が普段しないことをしたからか、二人は驚いていたが、逃げようとはしなかった。


「少し、このままでいさせてくれ…」


我ながら、情けない声だったと思う。
でも、何か察してくれたのだろう。二人は俺の背に手を回し、あやすように撫でる。

二人の手は、とても温かい。

俺はどれだけ二人に救われているだろう。

どれだけの笑顔を灯してもらっているのだろう?

俺はもう失いたくない。
この暖かさを、温もりを。

今すぐにとはいかないけれど、いつか二人に笑顔を灯せるように。

そこで待っていてくれ。

絶対に追いつくから!



(見失わないように、走る、走る、走る!)