※ケンタが普通にオーキド宅に居候しています ※既にデキています 「ただいま」 「あ、シゲルさん!お帰りなさい…シゲルさん、帰って来たばかりで悪いですけど夕飯は食べましたか?」 「いや、実はまだなんだ…。残り物でもいいから何かもらえないかい?」 「そうですか!…ちょうどよかった、…コレ食べて下さい」 「…これは?」 「恵方巻きですよ!今日は節分の日じゃないですか」 「ああ…、そういえばそうだったね」 「手洗ってきたら一緒に食べましょう?」 「一緒に…って、ぼくを待ってたのかい?」 「だって一人だけの食事って寂しいじゃないですか…。あ、オーキド博士やケンジさんはもう食べましたから、あとはオレ達二人だけですよ」 「…分かった。ちょっと待っててね」 「はいっ!」 そう言って彼はパタパタと台所へ駆けて行ってしまった。 ぼくは荷物を部屋へと置いてから、手を洗う為に彼のいる台所へと向かう。 今日は研究対象のサンプルを集める為出掛けていたのだが、思いの外調査に手間取り、気が付けば日が暮れており、街灯の無い森の中にこれ以上留まるのは危険だと思い、帰路を辿った。 おじい様には予め遅くなるとの旨を伝えておいたので、夕飯は自分一人何か軽いモノでも腹に収めながら今日の調査の結果を報告書に纏めようと考えながら玄関の扉を開けると、そこには恋人であるケンタ君が待っていた。 彼が自身の帰りを待ち、さらには夕飯まで一緒に取ろうと言ってくれた時、内心すごく嬉しかった。 彼が自身の恋人だから、というのもあるのだが、そういった何気ない気遣いを出来る彼に、心が温かくなる。 彼はジョウト出身のポケモントレーナーで、ぼくと同様に博士からポケモンをもらい旅をしている最中だった。 ぼくとの馴れ初めはカントー進出の際、図鑑のバージョンアップをする為にここ、オーキド研究所を訪ねたのがきっかけだった。 その時にぼくが彼を気に入り、そのまま強引にここに居候させるようになってから、どれくらい経ったのだろう。今となっては全く思い出せない。 だが、彼も嫌な顔一つせず、時にはジム制覇に精を出し、時には自身の研究を手伝ってくれたりもした。 今となっては、彼は自身の助手であるといっても過言ではないだろう。 そんな働き者で努力家な彼に惹かれ、告白したのはぼくの方だった。 断られることを承知だったが、顔を真っ赤にしてぼくに応えてくれた時の彼は、どうしようもないくらい可愛かった。 それからというもの、彼は前よりも自身に懐くようになり、今では人には言えない様な関係を持つとこまで発展した。 「…今ではぼくの方が“ベタ惚れ”、かもね…」 「?シゲルさん、どうかしましたか?」 「いや、君は可愛いな。と思ってね」 「っ?! …ば、馬鹿な事言ってないで早く手ぇ洗ってくださいよ!オレもう腹ペコなんですからっ!!」 「はいはい」 照れ屋な彼の反応はいつまでも初々しくて、ついからかい過ぎてしまう。 でも、これ以上からかうと拗ねてしまう、とこれまでの経験でしっかりと学んだので、ぼくはおとなしく言われた通り手を洗い、テーブルに着いた。 「ん?この恵方巻き、なんだか…」 「それ以上言わないで下さいっ!…実はそれオレが作ったんですけど、なんか上手くいかなくて不恰好になっちゃったんです…。けど、味には自信ありますからっ!」 「…へぇ、君が」 目の前に置かれた恵方巻きは、所々具がはみ出しており、お世辞にも美味しそうには見えなかったが、彼が一生懸命作ったものだと思うと、その不恰好さが愛しく思えた。 「別に気にしてないよ。…さ、食べようか?確か方角は南南東…だったよね?」 「はい。…それじゃあ、」 「いただきます」 二人の声が重なり、ぼく達は恵方巻きを頬張った。 去年まで食べていた恵方巻きとは違って、彼の恵方巻きは美味しかった。 「…ごちそうさまでした」 「ごちそうさまでした。…さ、後は豆まきですね!…って言っても、あとはシゲルさんの部屋だけですけど…」 「あ!豆まきで思い出した…。ねえ、ケンタ君。今度ぼくと一緒にイッシュ地方に行かないかい?」 「“イッシュ地方”…?いいですけど、…どうしたんですか急に…」 「新種の…、しかも鬼の姿によく似たポケモンが生息しているらしい。ぼくとしては、是非一度この目で見てみたいと思っているんだよ…」 「へぇ〜。鬼ですか…。でも、そうしたら今日みたいな日は遭遇しない方がいいですよね」 「そうだね。“鬼は外、福は内”って言われるくらいだからね…」 「あははっ!…まぁでも、オレも一度でいいから見てみたいです」 「また予定を空けておいて、暫くイッシュに滞在しながら捜してみないかい?部屋も一つ借りてさ…」 「なんか、…その、」 「ん?新婚みたいだって?」 「っ!! そ、そんなつもりは…」 「ぼくはそのつもりで言ったんだけどな…。ケンタ君がいいなら、ぼくはすぐ行動に移すけど?」 「………ずるい、です」 そう言って彼はぼくの胸にぽすり、と飛び込んできた。 彼の顔は俯いていてよく見えなかったが、耳は真っ赤になっていた。 そんな彼を優しく抱き締め、次に出るだろう言葉に耳を傾ける。 「そんなプロポーズまがいのこと言われたら……、っ頷くしか出来ないじゃないですか…!!」 「当たり前じゃないか。ぼくから逃げられるとでも?」 「…いいえ、思ってませんよ」 「ならいいじゃないか。…楽しみだなぁ、ケンタ君との同棲生活」 「……」 オレもですよ。なんて、照れ屋な彼は言ってはくれなかったけれど、彼の抱き締める腕の力が強くなったから、それを肯定と受け取ることにしよう。 (南南東へ、想いを馳せて) 新しい生活が始まろうとしている。 |