※恵方巻きネタ(だが健全)





「ゴールド、美味いかー?」


トキワジムの中で今年の方角、南南東に向かって恵方巻きを咀嚼するゴールドへ尋ねれば、言葉の代わりにこれでもかという勢いで首を縦に大きく振られた。
その反応が嬉しくて、やっぱり作ってよかったと俺は心の中でガッツポーズを決めた。

ゴールドが美味しそうに食している恵方巻きは、俺が作ったもので、今までまともに料理したことがなかった俺は、姉さんに教えてもらいながら、不恰好ながらも無事に恵方巻きを作ることが出来た。


『ゴールド、今日は節分だろ?……これ食えよ』

『…?これ、恵方巻き?…どうしたんですか、これ』

『俺が…、作った』

『…そうなんですか。それじゃあ、いただきます』


つい数分前にした会話を思い出し、自然と頬が綻ぶ。
目の前のアイツは不恰好だな、とか具がはみ出てるとかそう言った文句を一切言わず、ただ黙々と、そして幸せそうに恵方巻きを頬張る。

そんなアイツの心遣いに、胸がじんわりと温かくなった。


「…ん。グリーンさん、食べ終わりましたよ。ごちそうさまでした」

「お粗末様。俺もそう言ってもらえると作った甲斐があるってもんだ」

「でも、意外でした」

「なにが?」

「グリーンさんって案外世話焼きなんですね…。全然そんなイメージ無いから」

「言ってくれるじゃねーか。…このっ!」

「うわっ!?」


俺の顔を見ながら一人くすくすと笑うゴールドの肩を抱き、こちらへ引き寄せ抱きしめる。

まあ、ゴールドの言ってることもあながち間違いではない。
実際、ゴールドと恋仲になる前の俺は恋人の為になにかする。といった悪く言えば乙女的な行動など、生まれてこのかた取ったことが無かったから。

しかしまあ、この行動はゴールドと恋仲になったからというより、


「世話焼きっていうより、“惚れた弱み”なんだと思うぜ?なあ、ゴールド?」

「…っ!? ……グリーンさん、ずるいですよ」

「俺のあんな不恰好な恵方巻き文句一つ言わずに平らげたお前だって同じだろ?……互いに“ベタ惚れ”ってやつだな…」

「そう、ですね…」


そう言ってゴールドは赤い顔を伏せ、俺の胸へ擦り寄って来た。
俺もそんなゴールドを包むように、優しく抱き締める。

溢れだす愛情が、俺の心を満たしていく。


今なら鬼が来ても、何とかなる気がした。



(惚れた弱み、惚れさせた強み)



鬼は外、愛は内。


(Side.ライ伝)