ピンポンと、来客を知らせるチャイムが午後の昼下がりに鳴り響く。


「はい…。って、グリーンさん!どうしたんですか?」

「よ、久しぶり。…今時間大丈夫か?」

「ええ、今ちょうど一人なんで。……あ、立ち話もなんですから、とりあえず上がってください。大したお構いも出来ませんけど…」

「気にすんなって。急に押しかけた俺が悪いんだし…っと、お邪魔します」


買い物に出かけた母さんの代わりに一人家で留守番をしていたオレの元へやって来たのは、つい最近恋人同士になったグリーンさんだった。

トキワジムのジムリーダーとして忙しい彼は中々自分に合う時間を作るのは難しい、だからいつもはゴールドが彼のいるトキワシティまで出向いていたので、何の連絡も無しに来た彼に、僅かながら違和感を感じていた。

それに、いつもの様な明るい雰囲気ではなく、どことなく暗く影のある雰囲気が彼の周りを漂っていた。


「(きっとその原因も話してくれるだろう)」


無暗にこちらから聞くこともないだろうと決め、飲み物とお菓子を少し用意し二階にある自分の部屋へ向かった。



















「お待たせしました。飲み物、ミックスオレくらいしかありませんでしたけど…」

「そんなに気ぃ遣わなくていいって言っただろ?…しかし、お前の部屋に来るのは久しぶりだな。……また模様替えしたのか?」

「ええ、母さんが時々ぬいぐるみとか買ってくるんで。本当は恥ずかしいから止めてほしいんですけど、あんまり邪険にするのも。って思うと言い出せなくて…」

「いいじゃねぇか、別に。ぬいぐるみでもなんでも買ってきてくれるのは愛されてる証拠だ」


そう言ってテーブルに置かれたヒトカゲぬいぐるみを抱き上げる彼の傍へ飲み物を載せたお盆を置き、自身はベッドへと腰掛けた。
自分の分のミックスオレを飲みながら、彼の横顔を観察する。
いつも通りだとは思う。けれど、きちんとした確証が持てないでいるのはやはり急に彼が来訪したからなのだろうか。


「……なぁ、ゴールド。俺の話……聞いてくれるか?」

「……はい。オレでよければ」


ぬいぐるみを弄る手はそのままに、今までの声のトーンを落としてグリーンは話しかけてきた。
オレはやはり来たか。と彼の声に合わせるように、静かに応える。


「今日はいつも以上に寝覚めが悪かったんだ」

「はい」

「いつもの俺ならきっと冗談で笑い飛ばせるハズだった」

「…はい」

「でも、……夢の内容が妙にリアルで、頭から、手から、嫌な感触が消えないんだよ」

「……一体なんの夢を見たんですか?」


俯いたまま話す彼の一言一言を丁寧に拾っていき、返事を返す。
だが、肝心の彼が見たであろう悪夢の内容を話さないので、若干強引だったが彼の言葉を遮り先を促した。

そう言うと彼はベッドに腰掛けた自身の隣へ座り、震える手でオレを強く抱きしめた。


「…ゴールドが、…お前が消える夢。……跡形も無く、俺の目の前で塵になる夢を見た」

「……えっ?」


ポツリ、ポツリ。未だ震える手で自身を抱きしめたまま、彼は弱々しい声でそう言った。
オレを抱きしめる腕は存在を確かめるかの様に強く、強くオレを抱きしめ合わさった心臓からは互いの鼓動の振動が感じられた。