「はい、ヒウンアイス。零さないように気を付けろよ」
「「は〜いっ!!」」
「…ありがとう」
屋上に展開されている屋台で人数分のヒウンアイスを購入し、近くにあったベンチへオレ達は並んで腰掛けた。
オレからアイスを受け取った三人は口々に冷たい、美味しいなどと口にしながら食べ進めている。
それを微笑ましく感じながら自身もアイスを口に運ぶと、程よい冷たさと甘さが喉を潤した。
「ん。…食べてるところ悪いけど、今日の晩ごはんのリクエストあるか?」
「リクエスト?」
「そ。だってお前らがいつ元の場所に帰れるかも分からない以上は、暫くはオレ達が面倒見なきゃいけないし…」
所謂パラレルワールドから来たヒビキ達が、いつ帰れるかなんてオレ達には分からない。
だけれど、関わってしまった以上はオレ達が責任を持って面倒を見ないといけないのは確かだ。
「一日やそこらで帰れるとは思わないからな…。今日の夕方にはクリスやシルバーも帰ってくるから、オレの家で晩ごはん食べて行けよ」
「なんでもいいの…?」
「もちろん。こう見えても、三人の中じゃオレが一番料理が出来るんだぜっ!!」
「へぇ〜、そうなんだっ!ねぇ、ヒビキ君達はなにが食べたい?」
唯一話に食いついてきたコトネが、他の二人に尋ねる。
ヒビキはアイスを食べながらう〜ん。と考え込んでいたが、ソウルの方は素気無くなんでもいい。と答えるだけだった。
「あっ!僕アレが食べたいっ!」
「なに?」
「僕のお母さんの得意料理、“グレン風火山ハンバーグ”っ!!」
ヒビキが思いついたとでも言う様に、勢いよく顔を上げ元気よく言ったメニューは、オレの母さんも得意とする料理、“グレン風火山ハンバーグ”だった。
それを聞いたコトネも、顔を綻ばせて喜んでいた。
「あっ、私も食べたいっ!! ヒビキ君のお母さんの料理ってすごく美味しいよねっ!」
「うん!ねぇ、ゴー兄ちゃん。作ってくれる?」
「いいよ。それに、オレの一番の得意料理だしな。張り切って作るからな!」
「「ありがとう!ゴー兄ちゃんっ!」」
「ソウルもそれでいいか?」
「…いい」
「そっか。なら、アイス食べ終わったら下の階の食品売り場で買い物してから家に帰ろうか」
嬉しそうにはしゃぐヒビキとコトネの頭をぐしゃぐしゃと掻きまわし、にこりと笑う。
ソウルは相変わらず素気なかったが、それでも嬉しそうに見えた。
PiPiPi…
「…はい」
『もしもし、ゴールド?そっちはどう?』
コガネのデパートから帰宅し、今から夕食の用意に取り掛かろうとした時、オレのポケギアが着信を告げる。
その相手の名前を確認すれば、今は博士の手伝いを行っているであろうクリスからだった。
「クリスか。いや、普通に何事もないけど…。あっそうそう、今日はオレの家でメシ食ってけよ?ヒビキのリクエストで“グレン風火山ハンバーグ”作るから」
『えっ!アレ作るの? ……ちょっと待って。ねぇ、シルバー』
『聞こえてる。そうか、それなら折角だからご馳走になろう』
『シルバーも楽しみにしてるみたい。これでもう今日の手伝いは終わりだから、すぐにそっちに帰るから』
「おう!じゃぁ、腕によりをかけて作るからな。気を付けて帰ってこいよ」
プツッと彼女からの電話を切り、オレは二階に上がっていく三人に向かって声を掛ける。
「クリス達の用事も終わったみたいだし、あと少しすれば二人とも帰ってくるから」
「「は〜い」」
「オレは今からメシの準備するから、お前達はテレビでも観ててくれよ」
さてと、と帰りに買ってきた食材を並べ、エプロンを身に着ける。
クリス達が帰ってくる前に終わればいいが、今日はかなりの大人数での食事だ。なるべく手際よくやらないと。
「メインはハンバーグでいいとして、サイドはどうしようか…?」
「ねぇ、ゴー兄ちゃん」
「ん?」
サイドメニューを決めかねている時、不意に下の方から服の裾を掴まれたので、視線を向けるとそこにはコトネがいた。
「なんだ、コトネ」
「あのね、…私もお手伝いしたいっ!」
「あ、コトネずるいっ!ゴー兄ちゃん、僕も僕もっ!! いつもお母さんのお手伝いしてたから、役に立つよ」
えっへん。と胸を張る二人がなんとも可愛らしく、断ることなんて出来なかったので、オレは快く了承した。
そして、彼等の後ろでこちらを伺うソウルにも声を掛ける。
「そう言ってもらえると助かるよ。なぁ、ソウルも手伝ってくれるか?」
「…一人でテレビ観てたってつまらないからな。手伝ってやるよ」
「(素直じゃないな…昔のシルバーみてぇ)…ありがとう」
そうして二人の後ろ、階段の所に立っていたソウルも誘い、オレは夕食の準備に取り掛かった。