「…ん?」 「どうした、ヴァイス?」 「今、ボールが動いた気がして…」 パーティが開始されてから数時間。 豪華な食事に舌鼓を打ち、デザートのケーキを頬張っていると、不意に腰に下げていたモンスターボールが揺れた気がした。 ケーキの載った皿をテーブルに置き、ボールを手に取ると、確かにカタカタと音を立ててボールが動いていた。 「そのボールの中って…」 「ゼクロム。…だよ」 そう。このボールの中に入っているのは、このイッシュ地方の黒き英雄、ゼクロム。 対となっている白き英雄レシラムは、“彼”と共に私達の前から飛び去ってしまった。 それからというもの、自分は彼を捜す為にこのゼクロムを手持ちに入れ、イッシュ地方を旅しているのだ。 だが、今まで旅をしてきた中でゼクロムがこんなに興奮しているのは初めてのことだった。 「……っ!まさかっ!!」 「おい、ヴァイス?!」 自身の頭に浮かんだ一つの可能性に賭けて、私はサンヨウジムを飛び出した。 「N!」 「…やぁ、ヴァイス。久しぶりだね…それに、ゼクロムも」 夢の跡地の中心部。かつて、プラズマ団の下っ端がムンナを虐げていた場所の近くに、“彼”はいた。 白き英雄、レシラムと共に。 「どうして…ここに…?」 「レシラムがね、ここに来たいって言ったんだ。彼がこんなことを言うのなんて珍しくてね…。気になって来てみたら、ちょうど君達が楽しそうなことをやっていて…」 自身に擦り寄るレシラムを撫ぜながら、彼は淡々と語る。 その瞳は消えてしまったあの日よりも少し逞しくなっていたように思えた。 「…きゃっ!?」 それを感じ取っている時、今まで以上にボールの震えが激しくなり、ついに中からゼクロムが姿を現した。 「やぁゼクロム。…嬉しそうだね…。そんなにレシラムに会いたかったのかい?」 急に姿を見せたゼクロムに動じることもなく、Nは語りかける。 ゼクロムはそんなNを一瞥した後、ゆっくりレシラムへと擦り寄った。 レシラムもそんなゼクロムを邪険にすることもなく、久々の再会を喜ぶように二匹は体を交わり合わせた。 「ヴァイスッ!! …急にいなくなるから、心配したじゃない……か?」 「やぁ、シュウ。キミも久しぶり。元気にしていたかい?」 私の後を追いかけてきたシュウは私の前方にいる人物の突然の登場に驚き、放心気味であるのに対し、Nは先ほど自身に接したように穏やかに話し掛ける。 「…N…、久しぶり。お前も見る限り元気そうだな…」 「この短期間で色々な地方を旅してきてね…。自惚れかもしれないが、少し成長したつもりだよ」 「そうみたいだな。前よりも纏っている雰囲気が、柔らかくなった気がするよ」 「ふふ…。ありがとう」 そう言って笑う彼は、シュウの言う通り以前の冷たい雰囲気とは打って変わって柔らかく、温かいものになっているようだった。 「たくさんのトモダチを見てきた…。みんなとても楽しそうだったよ」 「うん」 「笑顔が溢れていた。喜びが溢れていた」 「うん」 旅をしていた時のことを、ポツリポツリと話すNは、不意に口を閉ざし、 「彼らの笑顔を見ていたら、キミ達に会いたくなった」 そう言った。 「「……え?」」 その言葉を聞いた時、私達二人は耳を疑った。 彼が、私達に会いたい? 「自分でもよく分からないんだ。でも、無性に会いたくなって…。多分、レシラムもそれを感じ取ったんだろうね…。だから、『レシラムがゼクロムに会いたいから』というのは口実で、本当は…」 「ボクが、“キミ達”に会いたかったんだ」 「そうしたらいてもたってもいられなくなって、レシラムに乗ってキミ達を捜したんだよ。ようやく見つけ出したキミ達は、ボクが旅先で出会った人やトモダチと同じように楽しそうに笑ってて、『ボクもそこに入れたらいいのに』なんて、以前のボクでは考えられない様なことを思ってしまって…」 そこまで語ると、彼は私達を二人を見据え、照れくさそうに、言った。 「だから、ボクもパーティに混ぜてくれないか…?」 顔を上げた彼の顔がほんのり赤かったのは、見なかったことにしよう。 初めて見せた彼の表情を、この目に焼き付けておきたいから。 「…それを早く言えって!! なぁ?ヴァイス」 「そうよ。だったらベルやチェレンにも会ってくれる?話したいことが、たくさんあるの!」 「ほらっ、Nも早く来いよっ!!」 そう言って半ば無理矢理に彼の手を引いてジムまで戻る。 そろそろ、ベルやチェレンも心配しているだろうから、と少し駆け足気味に。 「……ありが、とう…」 その時ぽつりと聞こえた、彼のぎこちない感謝の言葉が、ひどくくすぐったかったけれど、とても嬉しかった。 だって、また私達は出会うことが出来たから。 そして、手を繋ぐことが出来たから。 「(…もう、この手を離さないでね)」 視界の端に見えた流れ星に、そう願った。 (見上げた空に、祝福の祝詞を) トモダチと迎える、聖なるクリスマス |