※ユウハル



「メリークリスマスッ!!」


パーン、とクラッカーが軽快に弾ける音が部屋を包む。
今日はハルカの家でオダマキ博士の家族も混ぜた、クリスマスパーティを開いていた。
テーブルの上には、ハルカの母お手製の料理が所狭しと並べられており、どれも美味しそうな匂いを漂わせていた。


「すまないな。引っ越してきたその年くらいは家族だけで楽しいクリスマスを、と思っていたんだが…」

「気にするな。パーティは人数が多い方が楽しいからな。なぁ、ハルカ?」

「うん!すっごく楽しいよ!!」

「それはよかった」


少し申し訳なさそうにする親友のオダマキに対し、父親のセンリは気にした様子は無く、寧ろ嬉しそうに思えた。
そんな父の顔が見れたことが、ハルカにとってはとても喜ばしいことだった。


「ハルカも、同い年の子がいた方が盛り上がるだろうと思っていたからな」

「ユウキも、ハルカちゃんみたいな可愛い後輩が出来て内心とても嬉しいみたいだからな」

「ちょっ!父さん?! 違うからっ!!」
いきなり何を言い出すんだとでも言いたそうに、傍に座っていた博士の息子のユウキは立ち上がる。


「違うのか?パーティをすると言った時、あんなに落ち着きが無かったから、てっきり嬉しいものだと思っていたんだが…」


その時のことを思い出しているのか、オダマキは首を傾げ考え込む。


「私も嬉しいよ!ユウキ君といるの!」

「!? ……っ!!」

「あっ!! 待ってよ…」


ハルカは、ユウキも自分と同じ気持ちだったことが嬉しくて、彼へ笑顔を向けるが、彼は顔を赤くしそっぽを向いて、テーブルから離れてしまった。
そんな彼を、ハルカは追いかけて行った。




















「ユウキ君!…ごめんね。うちのパパが…」

「別に…、いいけど」


機嫌を損ねてしまった彼を自分の部屋へ招き、ハルカは俯きながら謝罪する。
そんな彼女を見たユウキは、気まずそうに頭を掻きながら、視線を泳がせている。


「(……折角のクリスマスなのに…、)」

「(…こんなハズじゃなかったんだけど…、)」


互いの間に、重い空気が流れる。下の部屋からは自分の両親の楽しそうな声が聞こえてくる。
自分達だって、早くこんな空気を無くしたい。


「「あのっ!!」」


そう、声を上げたのはほぼ同時だった。
二人はきょとん、と互いに顔を見つめ合った後、くすりと吹き出した。


「…ユウキ君、今の顔…あははっ!!」

「笑うなよっ!! …そういうハルカだって、今の顔は…はは」


しばらく二人で笑い合った後、ハルカは徐に机の引き出しの中から、綺麗にラッピングされた箱を取り出した。


「…それは?」

「…ユウキ君に…、その、プレゼント。開けてみて…」


赤い顔で俯くハルカからプレゼントを受け取り、巻かれたリボンを解いて開封する。


「…これは、」


その中に入っていたのは、ガラス細工で作られた紅色のキーホルダーだった。
手で掴み、光に当てると、反射してキラリと光った。


「火山灰でガラス細工をつくるおじさんがいるの、ユウキ君も知ってるよね?…実は、無理を言って特注で作ってもらったんだ」


照れくさそうに頬を掻きながら、彼女は答える。
そして、自分の反応を伺う様に、じっと見つめてきた。


「…ありがとう。…その、嬉しいよ」


ここまで彼女が自分を大切にしてくれていることが嬉しくて、でも素直に礼を言うことが出来なくて、ユウキはそっぽをむきながら、またしても素気なく答えてしまった。
けれど、ユウキの反応がただの照れ隠しだと分かっている彼女は、その顔をさらに綻ばせ、喜んでいた。


「じゃあ俺も…。はい……これ」


彼女に先を越されたことが悔しくて、ユウキもポケットに忍ばせていた箱を彼女へ差し出した。


「私に?! …うわぁ、ありがとう、ユウキ君。早速開けるね…」


ハルカはその箱を受け取ると、先程のユウキと同様にその中身を開けた。
その中には、


「…あれ?…私と…同じ?」

「………」


その箱の中のプレゼントは、先程ハルカがユウキにあげたものとそっくりの、しかし色違いのキーホルダーだった。
ユウキの紅い色に対し、ハルカのは藍色で、深海のような深い色合いだった。
ユウキもハルカも、まさか同じプレゼントを考えているとは思っていなかったので、後からプレゼントを渡したユウキは、気まずそうな顔をしていた。


「なんか、プレゼント被っちゃったね…」

「そう、みたいだな…」


「でも、嬉しいよ」


「……え?」


彼女の方へ顔を向ければ、満面の笑みを浮かべており、こう続けた。


「だってさ、私もユウキ君も、互いの為にとっておきのプレゼントを用意したんだよ? …もらって嬉しくない。なんて、言えないよ。……そ、それに私達…“恋人”なんでしょ?」

「!? …それは、そうだけど…」

「なら、“お揃い”でもいいじゃん!」


ね?と念を押されれば、頷くしかできなかった。
けれど、彼女の口から”恋人”という言葉が出てきたことに驚いてしまった。
告白したのは自分からだったし、彼女も曖昧な返事しか返してくれなかったので未だ脈は無いと思っていたのに。


「…ありがとね。ユウキ君」

「う、ん……」


ちりん。


キーホルダーに付けられた小さな鈴が、空気を揺らす。
室内灯の光を反射して、互いのキーホルダーが色を放った。



(小さな恋人の、大きなプレゼント)



君と迎える、初めてのクリスマス。


(Side.BW)