「…ん……んん、」


春の暖かな陽気の中、自宅のふかふかベッドの中で惰眠を貪るオレは、ふと左腕に当たる感触に違和感を覚え、思考は夢の中に少し残したまま、ぼんやりと目を開けた。

今日は学校も休みだし、ウツギ博士の研究の手伝いも頼まれていない。
だから今日はしっかりと体を休めようとしていたのに…。


「(もしかして、…本読みかけのまま寝たのか……?)」


それはない。


昨日は少し夜更かしをし過ぎてしまったので、最近日課にしている就寝前の読書をせずに、床に就いたのだ。
それに、本とは違う何かが、自分の左腕にピッタリとくっ付いていている。


「…なっ、…なんだこれ?!」


おそるおそる視線を向ければ、そこには少年がいた。

部屋着やパジャマではなく、しっかりと身なりを整えた、10歳位の少年が、自分の横ですやすやと寝息を立てて寝ていることに、夢の中へ行っていた思考は高速で現実へ帰って来た。

寝入る少年を起こさぬ様、しかしまじまじと顔を見つめていると、一つのことに気が付いた。
「(…なんか、オレに似ている様な……)」


前髪が爆発した特徴的な髪型の人は、そうそういつものではない。
それに、少年の来ている服も、所々デザインは違っているが、過去に自分が相棒のポケモンたちと旅に出た時に来ていた服と似ている。


「っ!? これは、モンスターボールッ?! ……それに、これは、…ポケギア、か?」


腰に付けられた六つのボールは紛れもなく自分がかつてポケモンを捕まえる際に使っていたモンスターボールだった。
さらに、少年の腕に付けられている情報端末の様なものは、この世界で言う“ポケギア”と変わらない代物だ。

ますます、この少年が分からなくなってくる。


「…ん、んんぅ……。あれ…、ここは?」


そうして一人でぐるぐると考えていると、自身を悩ませていた張本人の少年が目を覚ました。
少年はのそりと起き上がり、部屋とゴールドを見回した後、違和感に気付いたのか声を上げる。


「お兄ちゃん、誰?………ここは、どこなの?」

「……オレはゴールド。ここはワカバタウンのオレの家の、オレのベッド」


寝ぼけ眼を擦りながら訪ねる少年に、ゆっくり、そして丁寧に応答する。
そして、オレの言葉を理解した途端、カッと目を見開いた。


「えっ?! ワカバタウン!? 僕もそこの出身だけど、お兄ちゃんみたいな人知らないよ?!」



……………

…はい?



「ちょっと待てっ!オレだってココに二十年近く住んでるけど、お前みたいな子供はこの町にはいないって!」

「本当だってばっ!!」

「オレだって本当のこと言ってるんだってっ!!」


本当にどうなってるんだ?!


矢継ぎ早に繰り出される質疑応答。

オレもワカバタウン出身。少年もワカバタウン出身。
しかし、互いに面識は無い。
ジョウト地方にワカバタウンという地名はこの場所の他には無い。

しかし、二人の会話はまったくもって噛み合わず、とうとう二人して頭を抱えそうになった。


その時、


「ゴールド!! ちょっと助けてちょうだいっ!! 大変なことに……えっ?」

「ゴールド、どうやら俺の親父に隠し子がいたみたいだ。だが、誰に似たのかまったく可愛げがなくてな……。ん…?」

壊れるのではないかというくらいの勢いで部屋のドアを開けて入ってきたのはクリスと、横にいる少年と同じくらいの歳の女の子。

後ろからビックリするほど冷静に入ってきたのはシルバーと、小脇に抱えられた、これまた他の二人と同じ歳くらいの少年だ。


「…どういうことなの…」

「オレが知りたいよ…」

「まさか、お前の所にも隠し子がいたとはな…」

「違うからっ!!」


何ともいえない雰囲気がオレの部屋を包み込み、シルバーやクリスと一緒に頭を抱えると同時に、貴重な休日があっけなく散ってしまうことに涙した。



(ハンコ、お願いします!)



人の宅配なんて、聞いたことがないっ!!


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -