カントーにも冬の季節がやって来た。 耳当てをしていないからか、目の端を冷たく鋭い風が撫ぜる。 トキワジムの周りは雪が薄く降り積もっている。 昔は、こんな雪の日は幼馴染のレッドと一緒に雪合戦をしたっけ。 ふいに、彼の黒眼の奥に揺らめく炎の輝きを思い出し、笑う。 あいつは、もういないのに…… つい最近だった。カントー地方のあちこちに異常が発生したのは。 人が、 建物が、 街が、 ポケモンが、 消え去るという事件。 消え去った後に残るのは荒廃した荒地だけ。 “ブルー”も、消えた。 正確にいえば、カントー唯一残っているのはここと、俺だけ。 みんな、消えた。 でも、こんな世界に耐えられるほど、俺は強くない。 今まで必死にこの街の、この地方の残骸を抱いて生きてきたけれど、もう動けないんだ。 するり、と手から零れ落ちる暖かな記憶。俺の生きた証。 いつか元に戻る。 そんな脆い夢を集めたまま、俺という名の存在は、零れ落ちて消えた。 (この先の世界で、待ってる。) →Next |