「俺の勝ちだ」


そういって手持ちのウインディを横に従え、カントー最後のジム、トキワジムリーダーのグリーンは少年を見据えた。

その視線の先には、力尽きた相棒のポケモンを抱きかかえる少年がいた。
相棒のポケモンはぐったりと横たわり、気を失ってはいるようだが、大事には至っていないだろう。

挑戦者の少年はちょうど過去に自分が旅を始めた頃と同じ位の歳だろう。
同年代の他のトレーナーと比べれば、強い方だ。

だが、負けは負けだ。

結果は俺の勝ちだった。

少年の力は、俺の足元にも及ばないほどだった。


―『ジョウトのレベルが低いんじゃねぇの?』


バトルの前にした会話を思い出す。

まさに、その通りだと思った。

よくカントー地方最後のこのトキワジムにまで来れたものだ。

久々のジム戦に、腕の立つトレーナーとのバトル。
そんなものはまったくの期待外れで、俺は目の前の少年に苛立ちを隠せないでいた。


「お前本当にジョウトリーグを制覇したのか?よくここまで来れたもんだな…。なんか期待した俺が馬鹿みてぇ…」


はぁ、とこれ見よがしに溜め息をはいて見せ、少年の顔色を伺うが、少年は俯いたままで、俺の声は届いていないようだった。


「おい、聞いてんのかよ」


ぐいっ、と俯いている少年の前髪を掴み、顔を上向かせる。上に向いた少年の瞳には涙は無く、鋭い眼光が俺を刺した。


「…っ!」


その瞳にひどく見覚えがあって、俺は息を飲んだ。


「(…この瞳は、……レッドの瞳とそっくりだ)」


かつて、チャンピオンになった俺を即座にその座から引きずり下ろした、ライバルのレッドの瞳だ。
ギラリと光る瞳の奥に、仄かに光った金色の輝きが、俺の心を揺さぶる。


「(…くそっ!!)」


いらいらする、イライラする、苛々する!!


「…うぁっ!」


気が付けば、俺はジムの冷たい床に、そいつを押し倒していた。

突然の衝撃に対処しきれなかった少年は、瞳の端に涙を浮かべている。
その瞳に加虐心を煽られて、俺はにやりと笑みを浮かべた。

こいつの顔を、とことんまで歪ませてやりたい。


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