「ここだ」

「…お邪魔します」


後をついて歩いて数十分。アイツの隠れ家に到着した。

玄関の扉をくぐると、中は狭いながらもきちんと整理がされており、人が生活する空間が出来上がっていた。
同年代の、ましてや隠れ家なんて初めて見るものだったから、少しわくわくした。


「(ジュンイチの部屋やオレの部屋は、いっつもオモチャとかで散らかっていたしなぁ…)」

「荷物は適当に置いておけ。ちなみに、風呂はないからな。一日くらい我慢しろ」

「そんなとこまで気ぃ使わなくてもいいって。しっかし、お前の隠れ家すげぇな!なんか秘密基地みたいで!!」

「仮にも家だからな…」

「それでもスゲェって!!」


「…そうか」


そういってはにかんだコイツの笑顔に、ドキリとした。
今まで無愛想でどこか冷めた表情ばかりしか見たことがなかったからなのか。


それとも…、


「(いやいやいや!それはない、それはない!!)」


その可能性を否定するように激しく頭を振り、思考を霧散させる。
「(オレがコイツを“好き”だなんてっ!!)」

「…さっきは、すまなかったな」

「……え?」


そうしてオレが一人で盛り上がっている時、アイツは急に謝りだした。
今までの会話の流れで、謝るとこなんて一つも無い。

当然のようにオレが聞き返すと、ヤツはまごつきながらも語り始めた。


「…嫉妬したんだ。あの女に…」

「マリナに…?」

「アイツはお前の幼馴染だろ?小さい頃からのお前も、ポケモントレーナーとしてのお前も、アイツは俺よりも知っている。それがどうしようもなく、羨ましかった」


顔を俯かせながらも、アイツは語り続ける。
オレは初めて向けられたアイツの感情に、情報処理が追い付かない。


「だから、見せびらかしたかった。『どんなにそばにいようと、今一番新しいケンタを知っているのは、この俺だ!』って…」

「だからあんなことを…」

「自分がこんなにガキ臭い性格をしているとは思っていなかった。でも、今まででこんなに俺を夢中にさせたのはケンタ、お前だけなんだ」


そういって顔を上げたヤツの瞳が、えらく真剣で、オレはその場から動けなくなって。

アイツの手がオレの帽子を部屋の隅へ放り投げ、丁度オレの後ろにあったベッドに二人して倒れ込んでも、オレは抵抗できなかった。


「…ん、…」


唇が重なっても、不思議と以前のように嫌悪感は湧かなかった。
アイツの柔らかくて、でも少しかさついている唇が、オレの唇を啄むように食む。


「ん…はぁ、あ…」

「おい、…舌を出せ…」

「んぁ!…あ、あ、…んむぅ…う、ん…」

「ん、…」


今度はアイツの舌とオレの舌が絡まりあって、厭らしい水音が部屋に小さく響く。
肉厚な舌が、オレの口腔を縦横無尽に暴れ回る。


「ケンタ……好きだ。好き、なんだ…」


口を離したアイツの荒い息が、オレの唇にかかる。
アイツの真剣な告白が、オレの心を揺さぶる。

息苦しいし、頭はぼうっとするし、身体は熱くなるし、色々なものが混ざり合って思考回路がショートしそうだ。

いつの間にか手までアイツに絡め捕られていて、アイツの指がオレの指にがっちりと絡まっていて。

オレもアイツもいっぱいいっぱいで、目先の快楽に追い付くことに精一杯で。


「(あぁ、もう諦めた…)」


こんなに真摯な気持ちをぶつけてくる奴には、完敗だ。
目を閉じて、コイツから与えられる快楽に溺れる。

子供の不器用な恋だけれど、オレも子供だから。



(少年は、恋に溺れる)



それがどうしようもなく、“好き”だと感じた。