「ったく、なんでオレがあんな目に…」


ブツブツと文句を言いながら、オレは次の街へ向かって足を進めていた。
本当だったらもう少し先ほどの街でゆっくりする予定だったのだ。

しかし、予定は狂った。いや、狂わされたと言った方が正しい。


「(アイツのせいで…!!)」


最近知り合った、赤髪の少年に。

人がいるにも関わらず、公衆の面前でのキス。
ポケモンセンターでのマリナとの大喧嘩。

あんなことがあってもその街に滞在できるのは余程神経が図太くないと出来ない芸当だ。
もちろん、オレは常識を持ち合わせた善良なる人間なので、人目を避けるようにその街を後にしたのだった。


「マリナとも気まずい雰囲気のままわかれちゃったしなぁ…。ホント、オレってついてない…」


はぁ、と重い溜め息が口から零れるのも仕方のないことだ。


「そもそも、あの状況を作り出した元凶はどこに行きやがったんだ…!?」


興奮状態のマリナを落ち着かせている間に、アイツは忽然と姿を消した。


「畜生、面倒事全部押し付けていきやがって…」


気休め程度に地面に転がる小石を蹴り飛ばす。
こうでもしないと、ストレスで胃に穴が開きそうだったから。


「…なんだ、こんなところにいたのか…」

「っ!…お、前!今までどこに行ってたんだよ!! 探したんだぞ!?」


不意に横から声がし、反射的に顔を向ければ、そこには今オレの思考の大半を占めている張本人がいた。


「さっきからお前の後ろにいたが…?何か用か?」

「ストーカーか!! 『何か用か?』じゃねぇよ!お前がどっか行った後、マリナを落ち着かせるのに苦労したんだからなっ!!」

「あの女、えらく野蛮だったな。あんなのが好きだなんて、お前見る目がないな」

「ぶっ飛ばすぞこの野郎!マリナがあんなになったのはお前が原因なんだよ!」

「俺はあいつに釘を刺しただけだが?『ケンタは俺のモノだ』と…」

「あんな公共の場ですることじゃねぇーだろ!! 常識考えろ!!」

「だから、考えただろうが。あそこにいた人間の殆どは、俺とお前が恋人同士だって認識しただろう」


「……お前に話したオレが馬鹿だったよ…」


話が噛み合わない。そもそも、コイツはオレの言いたいことを理解していない。


話すだけ無駄だ。


そう思い、アイツにくるりと背を向け、次の街を目指す。


「おい、どこに行くんだ」

「次の街!どっかの誰かさんのせいで、さっきの街には居辛いんでね!」


後ろから呼び止めるアイツへ、たっぷりと皮肉を込めて嫌味を言う。
まぁ、効果はあると思えないが。


「もうすぐ日が暮れる。今日中に次の街には着かないぞ」

「野宿でもなんでもするさ。それぐらい慣れっこだしな」


「だったら、俺の家に来い」



……………



「…は?」


今、コイツはなんて言った?
家に来い?って言った??


「この近くにあるから来い。一晩泊めてやる」

「…ちょ、待てって…おい!手ぇ引っ張んなって!!」


オレが状況を整理する間もなく、アイツはグイグイと俺の手を引き、暗闇に包まれた森の奥へ歩き始める。

声を掛けても無視の一点張り。
オレは抵抗するのを諦めて、おとなしくアイツの後ろをついて行った。


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