※BBアイ ※惑星クレイパロ ※3期仕様 「後片付けは私達で行いますので、ブラスター・ブレードはアイチ様の部屋へ行き、アイチ様を休ませてあげて下さいと、コーリン様より言付かっております」 「ああ、分かった。では、後は頼んだぞ」 「はい!」 盛大に執り行われたパーティーも幕を引き、他国から参加した各クランの先導者(ヴァンガード)達の見送りも終え、後はパーティ会場の後片付けのみとなった時、私の傍にいた<必中の宝石騎士 シェリー>が声を掛けてきた。 かつて自身が所属していた聖騎士団(ロイヤルパラディン)の宝石騎士隊である彼女は、立凪コーリンを先導者とする騎士である。きっと、このパーティの主役であったアイチの体調を案じてのことだろう。他の騎士達と共に片付けを行っていた自身の元へわざわざ出向いてのことだった。 ブラスター・ブレード自身も彼が今所属する黄金騎士団(ゴールドパラディン)の先導者である先導アイチのことが気掛かりであったため、すぐさまシェリーへと礼を述べ、会場を後にしたのであった。 「アイチ様、いらっしゃいますか?」 「ブラスター・ブレード!うん、今部屋に戻ってきたところだよ。入って」 「失礼いたします」 まだほんの少しの喧騒を残す城内を進み、彼が居るであろう先導アイチの自室の扉をノックし、呼び掛ける。 すると、間もなく室内より部屋主であるアイチの声が返り、彼に促されるままに、ブラスター・ブレードは部屋へと足を踏み入れた。 先ほどのアイチの言葉の通り、部屋はまだ明りが十分に灯っておらず、室内には微量の光を放つランタンがアイチの足元に一つ置かれただけであった。 その光を辿りながら、ブラスター・ブレードは部屋のほぼ正面に設置された、外光が差し込む窓の傍に立つアイチの元へと歩み寄った。 「またそんな中途半端な脱ぎ方をして…。いくら初夏に近いからといっても、今のままでは風邪を引きますよ」 「うん。でも、さっきまで大勢の人混みの中にいたせいか、まだ身体が火照っててね。もう少ししたら、着替えるよ」 だから、もう少し。そう視線で訴えてくる彼のことを無下には出来ず、ブラスター・ブレードは小さく息を零してから、少しだけですからね。と言葉を返した。 ありがとうと言ってはにかむアイチの笑顔が、カーテンの引かれていない窓から差し込む月光の光に照らされて、微かに色付く。 いつもならその笑みに応えるように、ブラスター・ブレード自身も微笑み返すのだが、その光に反射したあるもののせいで、いつも通りにはいかなかった。 「おや、アイチ様。そのピンは…?」 「あ、これ?これはね、パーティが始まる前にブラスター・ダークと会ってね。その時にプレゼントされたんだ」 「彼が…」 「どうかな、ダークは似合ってる。って言ってくれたんだけど…」 アイチの中心に垂れる、先導者のみが着ることを許された正装のネクタイに留められたピンに、ブラスター・ブレードは視線を止めた。 そこに揺れる藍色に、パールであろう透き通るような白い輝きが中央端に留められたそれは、アイチにとてもよく似合っていた。 パーティが始まるまでは身に着けていなかったそれは、どうやらブラスター・ブレードのかつて敵対した相手であり、今は良きライバルである<ブラスター・ダーク 撃退者>から彼へ贈られた誕生日プレゼントらしい。 似合うだろうか?と問い掛ける彼は、含みの無い照れ笑いをこちらへ向けてくる。それがひどく不安で。 「っ!? ど、どうしたの?ブラスター・ブレード!」 「………っ」 未だこちらへ笑い掛けてくる彼の身体を、ブラスター・ブレードはきつく抱き締めていた。 そんなブラスター・ブレードの行動に、アイチは始めこそびくりと身体を揺らし動揺したものの、すぐに気が付いたらしい。抱き締めたまま黙り込む彼の頭を、そっと撫でながらまるであやすように優しく問い掛けた。 「もしかして、やきもち?」 「お恥ずかしながら、おっしゃる通りです」 「そこまで気にしなくても、ダークはキミ以上の感情を僕へ向けてはいないよ?」 「ですが、お忘れですか?かつて、私と彼は貴方の騎士の座を、貴方という人間を掛けて互いの剣を向け合ったことを」 「それでも、だよ。彼は僕のことを『先導者』としてしか見ていない。特別な感情があるとすれば、それは騎士が主に見せる忠誠そのものだ」 「…そうですね。それは私の目から見ても分かることです。…失礼しました」 シャドウパラディンが離反し、ロイヤルパラディンと剣を向け合った過去のことを、ブラスター・ブレードは未だ引き摺っていたらしい。 あの時、PSYクオリアに溺れ彼の手を離れた自身と、かつての戦友であった彼と刃を交えた時のことや、互いの譲れない想いを賭して戦った過去が、アイチをより想う糧となり、それが一層不安を煽っていたようだ。 だが、アイチが迷いなく凛とした声でそう告げれば、しばらく閉口した後、自身の言動を省み、小さく謝罪した。 「そんなに不安なら、僕に証をちょうだい。…キミがそうであるように、僕も永久にキミのものである証を」 「っ!? 縛り付けてもよいと、そう、仰るのですか?」 「いいよ。だから、キミの愛を僕に…」 「アイチ様…っ!!」 「んっ!」 反省し、項垂れる彼の顔を下から覗き込み、アイチは彼の不安を払拭しようとそう告げる。 その言葉の成す意味の重大さに、ブラスター・ブレードは確かめるように問い掛けるが、アイチの想いは変わらなかった。 出会ってから四年、そして、先導者として一年間彼と過ごしてきた中でアイチとブラスター・ブレードの間に芽生えた愛情は、周囲に見守られながら少しずつ、そして固い絆となって育まれてきた。 もう、十分だ。そう感じたからこそ、アイチは彼を、彼はアイチを互いの傍に留める証が欲しかった。 向き合い、力強い瞳と声でそう告げれば、ブラスター・ブレードは今にも泣いてしまいそうなほどに顔を歪ませてから、その唇をアイチのそれと重なり合わせた。 「好き……好きだよ、…ブラスター・ブレード」 「私も同じです。……好きです…アイチ…っ!」 合わさり続ける唇が離れる合間に、どちらともなく愛を囁き、吐息を混ぜ合う。 互いの背に腕を回し、離れてしまわないようにキツク抱き合い、そうしてしばらくしてから、二人はようやく唇を離し、互いの瞳を見つめ合った。 「なら、これを…」 「これは…」 「チェーンを通しておきました。これを、私からのプレゼントとして貴方に贈ります」 見つめ合いながらも懐から小さな箱を取り出したブラスター・ブレードが、それをアイチの前へと差し出す。それは、淡い水色の箱に金と蒼で染められたリボンが巻かれたプレゼントであった。 そしてその中から出てきたのは、彼の言う通りチェーンが通され、中央にはアイチの誕生日石であるトルマリンクォーツが輝く一つのシルバーリングだった。 「有事の際には、貴方の力ともなり得るでしょう。…お誕生日、おめでとうございます。アイチ様」 「ありがとう、ブラスター・ブレード」 首に掛けながら、彼が贈る祝福の言葉を一身に受けたアイチがふわりと微笑む。 そこには、彼の愛を受け、彼を愛する者だけが見ることが出来る笑みが浮かんでいた。 きっと、その特別な笑みは、目の前にいるブラスター・ブレード以外見ることは叶わないのだろう。 それほどまでに、彼が今見せている笑顔は唯一無二のものだったのだ。 「愛しています。アイチ様」 「愛してるよ。<ブラスター・ブレード>。…ううん、<ブラスター・ブレード 解放者>」 その笑顔を永遠に守りたいと、騎士は誓う。 ブラスター・ブレードとして、そして、ブラスター・ブレード 解放者として。 (愛する貴方へ贈る、騎士の愛) この世界に迫りつつある危機をその身で感じながらも、今この瞬間だけは、愛だけを感じていたかった。 |