※BDとアイチ(根底にはBBアイ)
※惑星クレイパロ
※地味に3期仕様





「寒くはないか?」

「大丈夫。ありがとう、ブラスター・ダーク」

梅雨明けも間近と言われているこの時期、雨がカラリと晴れ葉が露を纏う姿が広がる丘に、アイチはいた。
傍らには、かつて共に戦場を駆け抜けた覚悟の戦士、《ブラスター・ダーク撃退者》を並べて。
雨上がりからそう時間が経っていないせいか、風通しの良い丘は青空が広がっているにも関わらず頬を撫でる風が冷たい。
それを考慮して掛けてきたであろうブラスター・ダークの言葉にそう返したアイチは、彼が自身の隣に並ぶのを待ってからこう問い掛けた。

「それで、僕に用事って何かな?」

「これを、お前にと思ってな」

「あ…」

アイチと彼が城から少し離れたこの丘にいるのは、アイチの横にいる<ブラスター・ダーク>が発端である。
虚無(ヴォイド)に捕らわれていた三英雄を解放して数か月後、一時は<ゴールドパラディン>に所属していたブラスター・ダークは、彼の先導者である雀ヶ森レンのある提案により、再び<シャドウパラディン>としての活動を始めていたのだ。
新たに迫り来る脅威を撃退する為の組織、撃退者(リベンジャー)の名をその背負った彼は、今やアイチが先導者として契約している<ゴールドパラディン>とは時を共にしていない。
そんな彼が自ら今日こうしてアイチを城外へと連れ出し、この場所へ連れて来た真意を、アイチは量りかねていた。それに、ダーク自身寡黙である為、こうしてアイチから話を振らなければ、きっといつまで経ってもこのままだと判断した結果だった。
異を決して彼へとそう問い掛ければ、彼は少し逡巡した後に、懐から小さな箱を取り出し、アイチへと差し出した。
目の前へと差し出されたその箱は、黒をベースとした箱の周りに赤いリボンが巻かれた小箱で、アイチは彼の視線に促されるままにその箱を開けた。
そうして目の前へ姿を現したのは、中心にパールが嵌めこまれた藍色に輝くネクタイピンであった。

「今日はお前の誕生日だろう。そのプレゼントだ。ゴールドパラディンの正装によく映えるだろう」

「ありがとう!でも、どうしてここで渡したの?今日は夕方から生誕祭があるのに…」

「毎年多くのユニット達に囲まれてそうそう席を外れないのを見ていたからな。やはり連れ出して正解だった」

「気を遣わせちゃったみたいだね…。なんか、ごめんね?」

「気にするな。もともと俺がそうしたくてしただけだ」

箱から取り出し眺めていると、照れ隠しだろうか、咳払いを一つして彼はそう零した。
そう、今日は先導アイチがこの惑星クレイの地で産声を上げた大切な日。先導者となってからは毎年、騎士団の駐屯する《ユナイテッド・サンクチュアリ》では、盛大な生誕祭が開かれていた。今年も例外ではなく、日が沈んでから行われるということもあり、朝から国の住民を始め彼に従う騎士達はみな準備に追われていた。
彼のその言葉に、生誕祭は席から離れられた例がないことを思い出したアイチは、気を遣わせてしまったことを詫びたが、彼自身そのことについては苦とも思っていなかったらしい。あっさりと流されてしまった。

「本当にありがとう。大事に使わせてもらうね」

「さっそくここで着けてみるといい。貸せ」

「あ、うん」

彼自身がそう言っている為、それ以上アイチは彼に詫びることが憚られ、再度お礼を言うだけに留めた。
そうして受け取ったピンを陽の光に当ててしばらく眺めていると、着けてやるという彼の一言と同時に手の中からピンが姿を消し、次の瞬間にはアイチの纏うゴールドパラディンの正装の間に揺れるネクタイにピンが着けられていた。
金を基調とした服に嵌められたピンは、その中心で輝きと存在を主張し、正装の色合いのバランスを崩すことなくその中央で揺れていた。

「誕生日おめでとう。先導アイチ」

揺れるピンとはにかむアイチを交互に見つめ、彼は最後にそう呟いた。
きっと、彼がアイチに一番贈りたかったものはこの言葉なのだろうと察したアイチは、けれどその言葉に上手く応えることが出来ず、彼が城に戻ろうと言って手を引くまで、赤く染まった顔を俯かせて伏せることしか出来なかったのだ。



(もう一人の分身からの贈り物)



称賛も、名誉も、栄光も望まない。 望むのはただ、世界の平和と貴方の笑顔。