※アイチとナオキ





誕生日を迎えたその日、いつもと同じように学校へ通い、一日の授業を終えCF部の部室である物理準備室へと足を運べば、そこには副部長である石田ナオキの姿があった。

「お、俺の次はアイチか!他の皆はまだ来てねーみてーだな」

「小茂井くんは日直で遅れて、コーリンさんは今日は仕事って言ってたね。ミサキさんはもう少ししたら来るんじゃないかな?」

「なら都合がいいぜ!ちょうどアイチに渡したいモンがあってよ、ほら!」

「わっ!」

CF部の活動のことについて顧問である中村橋と話しをしていたアイチが部室へと足を踏み入れれば、テーブルにデッキを広げていたナオキがこちらへと駆け寄ってくる。
どうやらナオキ以外の部員はそれぞれの事情でまだ部室に足を運んでいないらしい。クラスメイトである小茂井シンゴと立凪コーリンの今日の予定を思い出したアイチがそう続けると、ナオキはそっかと軽く流して笑った。
そして今日部活動に参加出来る残り二人がまだこれないことを確認したナオキは、制服の上着のポケットをゴソゴソと漁り、次の瞬間には探り当てた物をアイチへ向かって投げた。
それを危ういながらもキャッチいたアイチは、掌に収まった物の正体を確認するため、今しがた受け取ったソレを凝視する。
オレンジ色の箱に赤と白のストライプ線が入ったリボンが巻かれたそれは、アイチの両手に収まるくらいの小さな箱だった。

「誕生日おめでとう、アイチ!それは俺からのプレゼントだ!」

「えっ!? あ、ありがとうナオキくん!」

「結構自信あるんだぜ。開けてみてくれよ!」

「うん!」

胸を張ってそう力説するナオキに押されるままに、アイチは持っていた通学鞄をテーブルに置き、椅子に腰かけてから箱の包装を解く。
そうして包装を解いて現れたのは、淡い水色が基調のデッキケースだった。

「これ、デッキケース!ありがとう!」

「おぅ!俺達ヴァンガードファイターに欠かせねぇもんだからな!」

「さっそく明日から使わせてもらうね!…時間もったいないから、ファイトしない?」

「そうこなくっちゃ!俺はもう準備出来てるぜー!」

ナオキからプレゼントされたデッキケースを鞄にしまい、今まで使っていた愛用のデッキーケースを取り出し、ナオキと向かい合うようにして席へ着く。
そうしてケースからカードを取り出し、シャッフルしている時、ナオキが小さな声でこう零し始めた。

「これでやっと、俺はお前にあげることが出来た…」

「?どうしたの、ナオキくん」

「小茂井の奴から誕生日だって聞いたときさ、俺、これだ!って思ったんだよ。これでようやくお前に与えることが出来た。ってな」

「与える?」

「前も言っただろ?初等部の頃、アイチがいじめにあっていることを知っているにも関わらず、俺はお前を助けようとしなかった」

零されたその言葉がひどく切なげなものに聞こえ、アイチはナオキの方へと視線を移し、手を止めた。
それはナオキも同じらしく、手に広げたカードを数枚持ったまま、アイチの問いに応えるように言葉を続けた。

「でも、こうしてまたお前と再会出来て、一緒にいることが出来るようになった。だからさ、決めたんだよ」


―『あの時“勇気”をあげられなかった代わりに、“居場所”をやろう』って。


「って、カッコいいこと言っても今俺がいるこの場所も、アイチがくれたもんなんだけどな」

そこまで言って、彼はイタズラに歯を見せてアイチへと笑い掛ける。きっと、自分自身でらしくない。なんて思っているのだろう。
けれど、ナオキのその言葉は、アイチに大きな喜びを与えたのだ。

「そんなことないよ、ナオキくん。僕がこの場所にいるのも、みんながいるからだし、なにより、僕がナオキくんの傍に居る。っていう“事実”は、紛れも無くキミ自身が僕に与えてくれたものだよ」

だから、本当にありがとう。

それ以上言葉で言い表せない気持ちを笑顔に込めて、アイチはナオキへ笑い掛ける。
それを見たナオキも、アイチに倣うようにニカッと笑い掛け、しばらくの間二人で笑い合うのだった。



(僕のもらった勇気と居場所)