※ジュン三和










「好きなだけ食べていいよ」


そう言ってオレの目の前に様々な銘柄のチョコレートが詰められた箱を並べて、ジュンはにっこりと笑った。

眼下に広がるチョコレート箱に記されたロゴをよく見れば、それはどれもこの時期にニュースなどで特集を組まれるほど有名な店の品ばかりで、そのおおよその値段を思い出したオレは、くらりと軽い眩暈を起こしかけた。


「…こんなの、もらえねぇよ…」


そうしてようやくオレの口から零れた言葉を聞いて、ジュンは首を小さく傾げながら驚いたような顔を向けた。


「どうしてだい?確かに量は多いけど、三和くんは甘い物が好きだっただろう?」

「そうだけどさ…。けど、こんなに高級なチョコレート、そう何個ももらえねぇよ」


甘い物が好きな自分としては、彼から贈られたバレンタインチョコレートを貰えるのはすごく嬉しい。

けれど、こうも高級なチョコレートばかり貰ってしまうと、三和の性格上、嬉しさよりも申し訳ないという気持ちの方が大きくなってしまうのだ。


「値段なんて気にすることないさ。それは何度も言っているだろう?ボクがキミに食べてほしいから、キミの笑顔が見たいからこうしてプレゼントを贈るんだ。キミは、受け取ることだけを考えていればいいんだよ」

「でも……」


こうしてジュンからプレゼントを贈られること自体は初めてというわけではない。
一年の節目の行事、それこそデートをする度も、彼からは身に余るほど高価な品をプレゼントしてもらっていた。

だけれど、こう何回も貰いっぱなしというのは、やはり普段人に気を配ることを良しとする三和の性格からすると、嬉しさよりもそれに見合った物をジュンに返すことが出来ず、心苦しいという気持ちの方が勝ってしまうのだ。

だからその度に彼とはこの話を何度も繰り返しているのだが、彼はいつも柔らかな笑みで三和の言葉とその先のことを誤魔化してしまうのだ。


「キミは、いつも人に何かを与える立場だから、貰い続けることに抵抗があるようだけど、それはボクとの間では無しにしてほしいな」


今日こそははっきりと言おう。と、口を開こうとしていた三和の唇を己の人差し指で静かに制しながら、ジュンは言う。

言い聞かせるように、諭すようにゆっくりと紡がれる言葉に、三和は渋々と耳を傾けた。


「ボクとキミは恋人同士なんだよ。“甘やかしたり”、“甘やかされたり”することが
出来る関係であり、“与えること”と、“与えられること”が出来る関係でもある。だからね、ボクが君を甘やかしたり、プレゼントを贈っている間くらいは、お返しを気にすることはやめてほしい」


そこまで言うと、ジュンは唇を制していた指を下ろし、並べられたチョコレートの中か
ら一粒摘まみ上げる。


「ね、分かったかい?」


そうして摘まみ上げたチョコレートを三和の口元へと運び、確かめるように問い掛ける。

そこまでジュンの言葉を聞いた三和は、自身が思っていた以上にジュンが三和という人間をよく観察していたことに驚いていた。

そして、今日は完全に自分の負けだと観念した三和は、ふぅと小さく息を吐いて、差し出されたそのチョコレートをばくりと咥え、次いで迫りくるジュンの唇をゆっくりと受け止めるのだった。