※惑星クレイパロ
※ほぼBBの独白





昔の話をしましょうか。

あれは、まだアイチ様が聖騎士団<ロイヤルパラディン>の先導者(ヴァンガード)として我々と契約を交わしてからそう経っていない日のことでした。

その日、ユナイテッドサンクチュアリは年に一度訪れる“バレンタイン”という祭りが国で行われており、国民の誰もが浮足立ち、私の住む城内も女性騎士達が精を出して作るお菓子の甘い匂いが立ち込めていました。

しかし、男性であり騎士団に所属する隊を纏め上げるリーダーである私はいつも通り、兵士達の鍛錬場として用意されている場所で一人、鍛錬に励んでいました。


「ブラスター・ブレード…?」

「…っ!? マイ、ヴァンガード。なぜこのような場所に…っ!!」


そうしてしばらく剣を振るっていると、不意に私の元へ近付く気配を感じ取り、一旦訓練をする手を止めて、その人物が向かってくる方向へ視線を向ければ、やがて姿を現したその人物の正体に、私は驚きを隠せませんでした。

そこにいたのは、我がロイヤルパラディンのヴァンガードであり、私、<ブラスター・ブレード>を自身の分身と呼んで慕う幼い少年、先導アイチ様だったのです。


「お一人でいらっしゃったのですか?」

「…う、うん」

「…よくぞご無事で…っ!」


鍛錬場と行っても、この場所は人目に付きにくい入り組んだ場所に設置されている施設な為、護衛も付けずに一人でこの場所に赴いたことにヴァンガードとして少しは危機感を持てと諭そうかとも考えましたが、今の彼に責めるような言葉を行っても却って彼と我々の信頼関係を希薄にしてしまう恐れがあった為、私は彼の無事に安堵するだけに留めました。


「でもね、…途中まではアルフレッドとスタリオンと一緒に来てたんだ」

「騎士王と…?なら何故、ここまで一緒に来られなかったのですか?」

「僕がお願いしたの。ブラスター・ブレードに渡したい物があって、プレゼントする時
は一人がいい。って…」

「プレゼント…?私に、ですか?」

「今日は、“バレンタイン”なんだよって、イゾルデやリアンが教えてくれたんだ。『大切な人に、大好きを伝える日』だよって…。だからね、僕の一番大切なブラスター・ブレードにお菓子を作ったの」


屈み込み、アイチ様と目線を合わせ事情を聴く。すると、幼い彼は視線を泳がせながらぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めました。

そして、プレゼントという言葉と同時に彼が私の前に差し出してきたのは、白のレースが施された包装紙に青いリボンが巻かれた小さな包みでした。


「中身はね、ロイヤルパラディンのみんなに手伝ってもらいながら作ったクッキーなんだ」

「これを…私に?」

「うん!僕の一番大好きなブラスター・ブレードにっ!!」

「………っ!!」

「うわっ!?」


その小さなプレゼントを満面の笑みで差し出しながら、アイチ様が発した言葉に弾かれるように、気が付けば私は目の前にある小さな身体を思いっきり抱き締めていました。

私の腕の中からは時折小さな声で「苦しい」というアイチ様の声が聞こえてきましたが、私は溢れる愛しい気持ちが涙となって零れてしまわないようにすることに必死で、それどころではありませんでした。

そうして、あれから一年に一度、主従という枠を超えてなお、アイチ様は私にあの日と変わらぬ想い、とあの日以上に大きな愛を贈って下さいます。
だから私も、そんな彼の気持ちを無下にしないように、今日も貴方の笑顔に誓うのです。


『(貴方の笑顔を命に代えても守り、命続く限り貴方と共にあり続けることを)』


この剣に、この愛に。

私は、心に刻み続けるのです。