※惑星クレイパロ





「先導アイチ!」

「は、はいっ!! ……って、あれ、レオン君!?」


冬の訪れを微かに告げ始めた冷たい風が吹く街の中、アイチは自身の名を呼ぶその声にびくりと肩を揺らして返事を返す。

それと同時に振り返った先の視界に映り込んだのは、つい最近になってその名を世界へ広めた“アクアフォース”を率いる先導者(ヴァンガード)、蒼龍レオンであった。

海軍を率いるに相応しい白い服を優雅に翻し、カツカツとアイチの元へやってくるレオンに対し、アイチはにこりと笑みを浮かべて応対する。


「どうしたの?今日は対策会議とか予定には組まれていなかったと思うんだけど…」

「会議以外で俺がこの場所に来てはいけないのか?」

「ううん、その逆。国事以外の時に来てくれた方が僕としては嬉しいから」

「そうか。……実は、少し用があってな…」


互いに軽い挨拶を交わしてから、アイチはレオンが何故この場所に居るのか問い掛ける。

アイチがヴァンガードとして率いる金色の騎士団<ゴールドパラディン>が駐在するここ《ユナイテッド・サンクチュアリ》は、惑星クレイにおける主要都市の一つでもある。

商いが盛んに行われる城下街では、今も道行く人々へ売り込みを行う商人達の声が飛び交い合っていた。

そんな中に、蒼龍レオンが居る。それは、アイチにとってはとても珍しい光景だった。

同じヴァンガード同士であり、今なおこの惑星クレイに侵攻を進める謎の勢力に立ち向かう仲間であるレオンは、普段は《メガラニカ》付近の海域で指揮を奮っている。この地に足を踏み入れるのは月に数回開かれる対策会議以外滅多にない事であった。

だからこそ、今この場所に会議以外の目的でレオンが足を運んでいるという言葉を聞き、アイチはそれに対し素直に嬉しいと返す。

アイチが笑みを崩さずそう言えば、先ほどの言葉で若干不機嫌そうにしていたレオンは満足そうに小さく笑った。


「それで、レオン君の用事って?僕でよければお手伝いするよ」

「それなら是非ともお願いしよう。なにせ俺の用事は先導アイチ、お前にしか出来ないことだからな…」

「………?」

「ここだとかえって人目に付く。城にあるお前の部屋に案内しろ」

「分かったよ!それじゃあ早速だけど行こうか」


用があると言っていたレオンに対し、アイチは自身が手伝いに協力すると提案した。

レオンはこの《ユナイテッド・サンクチュアリ》の地理に詳しいわけではない。城下街は先ほどから人々の往来で隅々まできっと彼の用事を手早く済ませるにはこの周辺の地理に聡いアイチが案内をした方が良いと判断したからだ。

その気遣いが功を成したのかは分からないが、どうやらレオンはアイチに用があったらしい。

アイチのその提案を突っ撥ねることなく協力を仰ぐと、すぐさまアイチの住む城の自室へ案内しろと言ってきた。

人目に付く。その言葉に疑問が無かったわけではないが、あのレオンがアイチを頼っていることが素直に嬉しくて、アイチはレオンのその言葉を聞くと彼の手を引いてゴールドパラディンの騎士達と衣食住を共にする城へと足を運ぶのであった。