例えば、この手が君に届いたとして、一体どれだけの想いがこの掌から伝わるだろう。

気まぐれに触れるその指先が頬を、唇を掠める度、どれだけの想いが溢れそうになっていることを、お前は知ってるんだろう。

お前が触れる度に高鳴るこの鼓動が、痛くて張り裂けそうなくらいに早く脈動していることを、お前は知ってるんだろう。

絡まる指先に、重なる唇に、どれだけ俺が翻弄されていると、お前は知ってるんだろう。




















「櫂…」


目の前を歩く彼の名前を、小さくそっと囁くように呼ぶ。

同時に伸ばした腕は、声は、けれども彼に届くことなく宙を切り、空に溶けていく。

もう一歩踏み出せば確かに届く距離だけれど、それ以上手を伸ばすことは出来なかった。

そうして手を伸ばすことを諦めたのは、これが初めてではない。

何回も何回も何回も、三和は、手を伸ばして熱を、溢れる想いを彼に伝えようとした。

けれど、それはいつも形になることはなく、三和は櫂に向ける様々な想いをぐっと飲み込んで、にこりと笑うのだ。

それは、自身が櫂の重荷になりたくないから。

前を向いて、自身の目的の為に歩む櫂の足枷になりたくない。それが、三和の願いであり、役割であると自負しているから。

自身は櫂の背中を支え、時には押し、そうして疲れた時に彼の帰ってくる場所だから。

だからこそ、三和は櫂の邪魔をする存在になりたくなかった。

傍に居て、触れて、抱き締めて。なんて女々しいことを言えるほどの人間でもない。

だから、手を彼まで伸ばさない。想いを、彼まで届けない。

そう心の中で律していても、寂しい想いは消えなくて。


「……っ!」


ほら、瓶に詰めた想いが蓋を弾いて溢れ出そうだ。

でも、そうなるとどうして。


「三和」

「へ……っ?!」


お前は俺を、見てくれるんだ?

向き合って、手を引いて。

指を絡めて、頬を撫でて。

唇を合わせて、言葉を紡いで。


「好きだ。三和」

「………っ!!」


俺が欲しい言葉をくれるんだ。

もう、止められない。

瓶詰された想いのキャンディは、ころころ、ぼろほろと溢れて広がっていく。

溢れた涙で滲む視界の向こうに、今までに見たこと無いくらいに穏やかな顔をして笑う櫂が見えて。


「俺…も…っ!」


それに応えるように、俺もくしゃくしゃの笑顔で笑い返す。

そうして再度近付いてきた唇を受け止めれば、ほら。



(キミから触れて)



伝えたい熱も想いも、キミに全部伝わっていく。