いつもカードを扱うその白い指先は思っていたよりもすらりと細く、掌は思っていたより大きく、骨ばっていたことに少し驚いた。

けれど、さらりと髪を撫でるその手つきはとても優しく、心地良さを覚える。


「か、櫂…?」


二人だけしかいない、穏やかな空間に三和の声が小さく響く。

それは、目の前で先ほどから三和の髪の毛や顔を撫でまわす櫂に向けられた言葉だった。

だが、窺うようなその言葉に櫂は応えない。これも、先ほどから幾度となく行われているやり取り。

その間も櫂の手は止まらず、いたずらに三和の髪や顔を撫でるだけ。

はじめはあの櫂がこんな風にじゃれついてくるとは思わなかったと、三和は心の中で驚いているだけだったのだがこうも長い間、真剣な表情でただ撫でられているだけだと、気恥ずかしさが込み上げてくるばかりだった。

櫂と三和は公にはしていないが、所謂『恋人同士』という関係に落ち着いている。

恋人である存在にそうして撫でられていれば、嫌でも頬が赤みを帯びるし見ての通り櫂はとても容姿端麗である。だから、じっと見つめてくる翡翠の瞳を見つめ返すことなんて出来なくて、なんとか悟られぬようにふいっと視線を外そうとしたのだが、それは突然伸びてきた櫂の指が唇を撫でたことにより失敗に終わった。


「な、なんだよっ!!」

「…うるさい。静かにしろ」


突然のことにびくりと肩を揺らし、抗議の言葉を発した三和にようやく櫂が返した言葉はあまりにも自分勝手すぎるものだった。

理由も離さず、抗議をすれば黙れと一喝。

その声がやけに真剣だったから、三和は次の言葉を声にする前に口の中で溶かした。

そうして三和が押し黙ると、櫂は唇に触れた指を右へ左へと行き来させる。

ふにふにと唇の感触を確かめるように。

さわさわと皮膚の柔らかさを愉しむように。


「……か、ぃ………っ!!」


そして、ついと櫂の指が三和の唇を割り、瞬間、三和の唇に櫂の唇が重なった。


「っ!……っ!!」

「ふ……」

重なってすぐに口腔を乱す櫂の舌に翻弄される。

ざらりとした舌が上顎を擽るように嬲れば、三和の身体はびくびくと震えた。

ぐちゃぐちゃと雑で卑猥な水音が鼓膜を刺激する。

先ほどまで三和の唇を滑っていた指は、今や三和の耳を弄んでいた。

親指と人差し指が柔らかな耳朶を摘まみ、捏ね回す。

それに合わせるように、口腔内の櫂の舌も一際激しく三和の舌を絡め取る。


「ふ、ぁっ!! あ、……か、いぃ……あっ…は、」

「三和……っ」


急に与えられた刺激に喘ぐように、足りない酸素を求めるように、三和は空を泳ぐ自身の両腕を目の前の櫂の背中へと回し、縋り付く。

そうしてはくはくと浅く息を吐く三和を見兼ねてか、櫂は名残惜しそうにしながらも漸く三和の唇から自身のそれを離した。

はぁはぁと、どちらともつかない呼吸が部屋に響く。

未だ櫂の身体に縋り付いたまま息を整える三和の髪を撫でながら、ふっと笑みを零した。


「…あ、…なに、…笑ってんだよ…」

「さぁな」

「あのなぁ……」


その笑みに不満を隠そうともせずに、三和はじろりと櫂を睨み上げながら抗議する。

けれど、対する櫂は三和のその言葉に反省など全くしておらず、簡単にはぐらかすとまた髪の毛を優しく撫で始めた。

跳ねている三和の髪を撫でつけるように、さらりと流れる髪を掬うように。

時折頬に触れる櫂の手の冷たさに、火照った体を冷やされる気持ちよさを感じながら、三和はそれ以上言葉を紡ごうとせず、ゆっくりと櫂の身体へと自身の身体を預けるのだった。



(指先から感じる君の熱)



そんな三和の唇に再度櫂の指が触れるまであと少し。