※レンさんがコスプレしてます





「……っ!! は、ぁ、…レ、ンっ!!」

「タイシ…」


ちゅく、と小さくそれでいて卑猥な水音が三和の鼓膜を刺激する。

その音は首元から響き、音を響かせている人物であるレンは、三和の首元になおも舌を這わし、唇で吸い付いていた。


―『Trick or Treat!』


そう言いながら、黒と白で統一された吸血鬼の仮装をした目の前の男、雀ヶ森レンは三和の前へと姿を現した。

場所は三和の自宅。

教えてもいない自宅の住所をどうやって特定できたのかは考えたくなかったので、三和はレンのその突飛の無い言葉にすぐさま言葉を返すことが出来なかった。

シックな色合いで纏められた衣装に、レンの持つ真紅の髪と瞳が映える。

その鮮やかさに一瞬ハッとした三和だったが、すぐさまレンのその言葉に応えようと口を開こうとした。

だが、三和が起こそうとしていた行動を遮るように、レンはすぐさま三和の身体を壁へと押し付けた。

そして、何事かと目を見開き視線でレンの姿を追おうとした三和は、首元に強烈な刺激を感じて悲鳴を上げた。

模造品として作られた牙が、三和の首に食い込む。

作られたものであるから肉が裂け流血するまでには至らないが、それでも牙が食い込む痛みを抑えることは出来なかった。


「いっ、……痛ぇ…って、レ…ン」

「っ!! すみません」

「ひぁっ!ちょ、いきなり舐めるなってっ!!」

「だってタイシが痛いって言うから…」


それでも痛みに上がる悲鳴をなんとか押さえてレンへと制止の声を掛ければ、びくりと肩を揺らしたレンが首元から口を離して三和を見遣る。

眉を少々下げていたがその行為が止まることはなく、むしろエスカレートして、くっきりと歯型のついた三和の首元を今度は舌でべろりと舐め上げた。

その感触に思わず甲高い声を上げてしまった三和がハッとレンを意おろせば、まるでこうなることを計算していたかのように、先ほどまで下げていた眉を吊り上げて、妖艶な笑みと共に低く囁いた。


「ほら、気持ち良いんでしょう?」

「………っ!!」


否定は出来なかった。否、きっと否定したとしてもレンのこの飄々とした態度と言葉で言い包められてしまう。

三和に拒否することなど、始めから出来やしないのだ。


「それよりもタイシ、さっきの答え。早く答えて下さいよ」


ちゅっと控えめなリップ音を立てながら噛みついた箇所を労わるように口づけをするレンが、不満そうにそう言った。

その言葉に三和がこうなる前のやり取りを思い返してみる。


―『Trick or Treat!』


噛みつかれる前にレンに言われた言葉、その返事をレンは待っているのだ。

ここですぐさま飴なりチョコレート菓子なりをレンに差し出せればよかったのだが、生憎今しがた学校から帰宅してきたばかりの三和が菓子を持っているわけもなく。


「分かってるくせによく言うぜ…」

「でも、ボクはタイシの口から直接聞きたいんです」

「はぁ……ったく、分かったよ…」


それでもレンのその意向に素直に従う気にもなれず、嫌味を込めてそう返してもやはりレンには効かないようで、悔しさを紛らわす為に頭を軽く掻いて、三和はとうとう観念してレンの首へと両腕を回した。


「イタズラ、しろよ」

「キミの望むがままに」


三和のその言葉を聞くと同時に、レンの唇が三和の唇に重なった。



(Trick or Treat!)


重なった唇からはお菓子よりも甘い愛が広がった。